PSAと前立腺癌の関係

PSAが高い=前立腺癌と誤解されている医師、泌尿器科医がとても多いので、このページで解説しましょう。(資料:前立腺特異抗原PSA 医学図書出版株式会社から)

Psamecha本来PSAは、前立腺液の中に含まれる成分です。
正常な前立腺細胞であれば、腺腔の周囲を細胞が隙間なく整然と並んでいて、基底細胞層・基底膜が完全なので腺腔内の成分PSAが血管にに漏出することはありません。
しかし、腺腔を取り巻く細胞が前立腺癌であると、並び方が不ぞろいで、基底細胞層・基底膜が不完全なので、腺腔としての形態が壊れます。そのため、腺腔内の成分PSAが血管内にたくさん漏出するために、血液検査でPSAが高くなるのです。
PSAは前立腺癌特有な物質ではなく、前立腺内に多く含まれる物質であることがお分かりいただけたでしょう。

Psadis右のグラフは、前立腺にからんだ病気とPSAの値を示すものです。
前立腺腺腔壁が破壊される病態であれば、つまり基底細胞層・基底膜が破壊される病態であれば、PSA値は高く上昇します。
この一見クリア・カットなグラフですが、ここに誤解が潜んでいます。
まず、前立腺癌グループのPSAが高いのは、納得できます。
次に、急性前立腺炎グループの場合、前立腺内腔が破壊されてPSAが高くなるのも理解できます。しかし、ここに誤解があるのです。急性「前立腺炎」として診断されている患者さんの中に、排尿障害が潜んでいる患者さんが多く含まれていることがあるのです。
慢性前立腺炎のブログで解説しているように、難治性の慢性前立腺炎は患者さんが自覚しない微細な排尿障害が原因だと私は信じています。つまり、症状は慢性前立腺炎なのですが、実は膀胱頚部硬化症が本当の病態で、排尿障害が症状を造るのです。排尿障害は前立腺を排尿中に振動・圧迫しますから、いわゆる前立腺マッサージを毎日何回も実施しているのと同じになるのです。そのため、前立腺内腔からPSAが血液中に漏出し、PSAが高くなるのです。すなわち、【排尿障害=PSAが高くなる】という命題が成立するのです。
ところが、臨床医は急性前立腺炎の炎症そのものがPSA高値の原因だと思い込んでいますから、急性前立腺炎の激しい臨床症状がなければ、PSAが高い理由を前立腺癌にするのです。このグラフでは「急性前立腺炎」と明記しているだけで、排尿障害の有無は不明です。
前立腺肥大症または慢性前立腺炎グループのPSAが高くなるのも、排尿障害が原因です。しかし、臨床医の頭の中では、前立腺肥大症しか頭に入っていません。慢性前立腺炎が抜けているのです。PSAが高い患者さんを診察する際に、前立腺が大きくなければ(前立腺肥大症でなければ)、即、前立腺癌と診断してしまうのです。「慢性前立腺炎」が抜けているのです。そのため前立腺針生検の被害者が増えていくのです。

Psabphこのグラフは、年齢別前立腺の大きさとPSAの値との関係を表しています。
50歳~59歳の比較的若い世代のグループでは、前立腺の大きさが35cc~45ccの比較的軽度の前立腺肥大症において、PSAが優位に高くなります。
その上の世代の60歳~69歳のグループでは、40cc~50ccの中等度の大きさの前立腺肥大症でPSAが高くなります。
さらに70歳以上の高齢者のグループでは、前立腺の大きさが50cc~60cc以上のかなりの大きさでないとPSAが高くなりません。
この一連のデータから分かることは、若い世代ほど前立腺肥大症が小さくてもPSAが高くなるということです。しかし、一般臨床医は年齢によるこの事実は知らずに、年齢に関係なく前立腺肥大症は大きければ大きいほどPSAは高くなると思っています。ですから小さな(40cc前後)前立腺肥大症でPSAが上がる場合には、前立腺癌しかないと誤解してしまうのです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

前立腺ガンの検査・診断・治療

前立腺腫瘍マーカーであるPSAが少しでも高いと、猫も杓子もみんなそろうように前立腺針生検を行っています。その結果、前立腺癌の発見される患者さんが増え、PSA検査の価値が高まっています。PSA検査を健康診断のルーチン検査に入れているところも少なくありません。
GanpcaPSA検査による前立腺癌の早期発見患者さんが増加した結果、前立腺癌の治療方法が格段に進歩した昨今にも関わらず、なぜか前立腺癌で亡くなる方が右肩上がりに増加しています。まるで前立腺針生検の数だけ前立腺癌で亡くなる方が増加しているように思えてなりません。
この不思議な現象を以前に解説しました。むやみに前立腺針生検を行わない勇気も必要だとまで述べました。

前立腺癌は前立腺針生検によって、悪性度を増し転移や周囲の臓器に浸潤させてしまうのではないかと私は考えています。医学的常識で考えれば、癌の組織検査を実施し組織像を正確に把握してから治療するのが当たり前です。しかし、組織検査をすることで、ガン患者さんを窮地に陥れるのであれば、本末転倒です。

Pbiopsylist_3

そこで、前立腺針生検の適応を私の考えで上の表にまとめてみました。
あくまでも私の持論・自論・時論・痔論であって、泌尿器科学会の常識ではありません。誤解しないようにして下さい。
前立腺針生検を実施してもよいのは、全身の骨転移が無数に存在するステージDの患者さんのみです。グレソン・スコアが低い(2~6点)と考えられる場合は原則として組織検査を実施しないで治療に踏み切るべきでしょう。なぜなら、グレソン・スコアが低い=潜伏前立腺癌の場合は、前立腺癌組織の体積が2倍に増加するまで20年近くかかります。その間全く治療しなくても生存率には影響ないのです。組織検査を実施し、証拠をつかんでから治療を始めるのが常識の医師からすれば非常識な愚行です。しかし、患者さんサイドから考えれば、前立腺針生検で、前立腺癌細胞の悪性度が増し(ただしハッキリしたエビデンスなし)、全身骨転移を促す可能性(ただしハッキリしたエビデンスなし)のある前立腺針生検は、患者さんにとって不利益な可能性のある検査です。

前立腺針生検により、前立腺癌の悪性度を判定するグレソン分類ができます。またグレソン分類をもとに臨床上の予後を予想するグレソン・スコアが決定します。要するに前立腺針生検の結果で患者さんの予後があらかじめ予測できるのです。予後を予測できるということは、治療の内容にかかわらず、結末が決まっていることになります。
逆転の発想で、患者さんの現時点での臨床所見から、グレソン・スコアを予測することは100%できないかも知れませんが、ある程度可能ですし、それによりグレソン分類を予測できますから、前立腺針生検を実施しなくても前立腺組織の悪性度を予測できると考えられます。

グレソン・スコアが高い(9点10点)の患者さんが、前立腺触診で硬結が触れずに、骨転移がなく、PSAの値が4前後である可能性が0%とはいいませんが、おそらくその確率は極端に低いでしょう。それよりも前立腺針生検によるリスクの方がはるかに高いと考えます。

世の中では膨大の数の前立腺針生検が実施されています。その組織検査結果で、治療方針が左右されることは実質的にありません。前立腺針生検の結果ではなく、骨シンチやMRI検査結果で、骨転移や浸潤を判定し、前立腺全摘出術を実施するか放射線治療するかホルモン治療するかを決めています。どの時点であっても転移が著しい場合には抗癌剤に治療方針が変化するだけです。前立腺癌の組織学的悪性度が、臨床上役立っているとは実際考えにくいのです。

PSAが少しでも高いからといって、前立腺針生検を実施しなければならない理由が薄らいでいます。

例として日本で最高のVIPである天皇陛下を日本最高の頭脳集団である東大病院泌尿器科の最高のスタッフが、陛下の前立腺癌の病状をステージAまたはBと判定しました。その結果、前立腺全摘出術を行ったのは記憶に新しいことです。ところが数年後、骨転移もしくは浸潤(正確には報道されていないので不明ですが)を示唆する所見(PSAが高くなった)があり、ホルモン治療を始めたことも周知の事実です。この経過をタマタマと思われるか、いかに診断精度を高めてもこの程度の結果かと、判断するのは読者にお任せするとして、前立腺針生検の危うさを物語っているように思えます。
(つまり、陛下の前立腺針生検時点では、癌組織の悪性度は中等度以下であって、転移も浸潤もないステージA・Bの診断だったのでしょう。手術後経過とともに、悪性度が増し?ステージがC・Dにアップしたのです。この変化は前立腺針生検が関与している可能性が高いと考えます。)

前立腺針生検を実施してもよいのは、骨転移が無数に存在しているステージDの予想グレソン・スコアがおそらく高いだろうと推測される患者さんのみです。前立腺針生検でこれ以上悪化する恐れがないからです。その場合でも絶対的適応はありません。なぜなら組織検査を実施してもしなくても、悪性度が高いのは決まっているからです。

極端な話し、PSAが少し高く前立腺触診で硬結が触れなければ、PSAが高いのは排尿障害が原因と考え、排尿障害の治療を始めましょう。その結果、PSAが低下すればOKとします。
排尿障害を治療してもPSAが改善しなければ、グレソン・スコアが低い(2・3・4点)の前立腺癌の可能性があるとして、状況証拠だけで抗男性ホルモン剤(プロスタールなど)の治療を始めればよいでしょう。
硬結が触れる場合には、骨シンチを実施し骨転移を確認します。そしてホルモン治療(LH-RH注射)を始めるべきでしょう。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

前立腺肥大症と抗男性ホルモン剤

前立腺肥大症の治療の現在の主流は、α-ブロッカーです。商品名としては、ハルナールD、ユリーフ、フリバス、エブランチルなどがあります。
私が研修医のころの前立腺肥大症の治療は、プロスタールなどの抗男性ホルモン剤が主流でした。しかし、前立腺が小さくなり頻尿などの症状が軽減するまで、時間を要しました。また、性欲がなくなるなどの副作用もあったので、α-ブロッカーが出現し患者さんの症状が劇的に軽快した時の驚きは、今でも忘れません。
現在では、ほとんどの医療機関で、α-ブロッカーの治療一辺倒になってしまいました。これはこれで弊害が出るのです。いくらα-ブロッカーがで前立腺や膀胱の平滑筋の緊張をゆるめてくれても、前立腺容積が大きい場合には前立腺肥大症の排尿障害には太刀打ちできません。
Prostal22988m73この写真は73歳の男性患者さんの超音波エコー検査の所見です。
夜間頻尿と陰嚢掻痒症で来院しました。前立腺容積を計算すると約100ccです。正常が20cc前後ですから、正常の5倍の体積を有しています。
こんなに大きくてはα-ブロッカー単独の治療では限界があります。患者さんは内視鏡手術を希望していましたが、私が行う日帰り手術では、大き過ぎて手術時間が長くなることと、出血のコントロールが難しくなるので、安全を期してとりあえずお断りしました。
その代わり、排尿障害治療薬であるα-ブロッカーと抗男性ホルモン剤の治療をしばらく行うことになりました。

Prostal22988m733m治療して3カ月後の超音波エコー検査の所見です。
パッと見てお分かりのように、前立腺の大きさが小さくなりました。約41ccです。単純に計算して40%の大きさになったのです。症状も軽快しました。前立腺の大きさが小さくなったので、日帰り内視鏡手術も十分可能になりました。
今の治療をもう少し続け、症状が完全に落ち着いたら抗男性ホルモン治療を休止するつもりです。その時点で内視鏡手術を希望されれば、手術を受けることになりました。
治療の選択肢は、良いにつけ悪いにつけ時間の経過とともに変化するのです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

前立腺ガンとビタミンC療法

前立腺ガンの患者さんを何人か治療しています。
ホルモン治療でガンをコントロールしますが、中にはホルモン治療に抵抗するガンも存在します。

紹介する患者さんは、80歳の男性です。過去に他の医療機関で前立腺肥大症の内視鏡手術を実施しています。
腰骨が痛いということで近くの整形外科を受診したら、前立腺ガンの骨転移を疑われ、当院に紹介されました。


Pca18996m79bonescinti【患者さんの実際の骨シンチ画像】
前立腺腫瘍マーカーであるPSAが【544.5】と高値(正常が4.0以下)で骨シンチグラムで全身骨転移を認めました。左の腎臓は尿管が前立腺ガンでつぶされて全く機能していません。右の腎臓も水腎症の所見で、尿管が塞がりつつあります。
前立腺針生検を実施し、病理結果は悪性度の高い(poorly differentiated adenocarcinoma)前立腺ガン細胞が認められました。グレソン・スコアが【5+5=10点】と悪い方に最高点でした。
グレソン・スコアを考慮すれば、予後は最悪です。治療に抵抗する可能性が高く、当然、周囲の臓器に浸潤し、転移するのは当たり前です。

早速、ホルモン治療を開始しました。治療開始後1ヵ月でPSAは【192.7】と数値が下がり、骨の痛みも軽減しました。3ヵ月にⅠ回のホルモン注射(LH-RH)を継続しました。経過を追うためにPSAを定期的に測定するのですが、治療開始後3ヵ月後には期待に反して(グレソン・スコアからすれば予想通り)PSA【360.0】、その翌月には【507.0】と徐々に値が高くなり、ホルモン治療に可能性が見えなくなりました。ついにはPSA【745.5】までになり、このままの治療ではまったくコントロールできない状態です。

Psachange3_2患者さんが高齢なので思い切った治療ができません。そこで極少量の抗がん剤の併用を試みましたが、服用1ヵ月後PSA【418.5】で若干反応がある?と喜んだのもつかの間、2ヵ月後に【485.0】と治療効果に期待が持てません。

こうなると、開業医レベルの治療では、もう手に負えない状態です。通常であれば、大学病院クラスの病院に紹介し、入院して積極的な化学療法(抗がん剤治療)を行わなければなりません。しかし、患者さんが全く乗り気ではありません。

そこで代替療法では今流行りの「高濃度ビタミンC療法」を患者さんとご家族とに相談の上、開始です。高濃度ビタミンC療法の日本での権威である水上治先生から得た方法を少し変法にして治療することにしました。
毎週1回の点滴で大量のビタミンCを投与するという治療です。患者さんが80歳とご高齢ですから体に負担のかかる治療はできません。
この治療を続け2ヵ月後に検査を行いました。何と!PSAが【16.6】にまで減少したのです。患者さんも私もそのデータを知り元気になりました。ビタミンC恐るべし!『このまま効いてくれ!』

4ヵ月後には、【15.3】と着実に減少しています。

【治療によるPSA推移】
2008年 4月 544.5 
2008年 5月 192.7ホルモン治療開始後
2008年 8月 360.0
2008年10月 507.0
2008年12月 745.5 
2009年 1月 418.5ホルモン治療+抗がん剤治療開始後
2009年 2月 485.0 
2009年 4月 16.6ホルモン治療+抗癌剤治療+VC治療開始後
2009年 6月 15.3

泌尿器科医がこのエピソードをご覧になれば、にわかには信じられないでしょう。私もそうだからです。ひとたび、ホルモン抵抗性を持った前立腺癌が治療経過中に再びホルモンに反応することは経験したことがありません。ましてビタミンCを併用したくらいで、これほどの効果があるなんて信じられません。
このままPSAが下がり続けるのであれば、7月に予定であったホルモン注射(LH-RHリュープリン注射)を中止することにしています。ビタミンC治療は、その単独治療だけでは効果が少ないとされています。ですから、ごく少量の抗癌剤治療は継続するつもりです。

ビタミンCは細胞内に取り込まれると、鉄イオンと反応して細胞毒性の強いスーパー・オキサイド活性酸素を造ります。このスーパー・オキサイドが癌細胞を駆逐するのです。すべての細胞に起こりえる現象ですが、なぜ癌細胞に顕著に反応するのか不明です。正常の細胞には、細胞内でビタミンCのこの反応を抑える仕組みがあり、癌細胞には抑える仕組みが欠落しているのかも知れません。あるいは、癌細胞は鉄イオンの吸収がよい(原初の頃の地球環境は鉄イオンが多く存在しました。癌細胞は未分化つまり先祖がえりした細胞ですから、太古の地球環境に順応する細胞に変化するのかも知れません。)ために、癌細胞内鉄イオン濃度が高くビタミンCとの反応効率が高いためにスーパー・オキサイドが生成されやすいのかも知れません。

過去にビタミンC治療は癌には効かないと、アメリカのメイヨー・クリニックで報告があってから、アメリカですたれたビタミンC治療です。しかし、メイヨー・クリニックのこの報告内容があまりにもいい加減(ビタミンCがはなから効く訳ないという主観が入り)であったので、ビタミンC治療が再認識されるようになりました。

ホルモン抵抗性再燃前立腺癌患者さんをかかえて悩まれている泌尿器科医の先生方、詳細をお教えしますから、ご連絡をどうぞ。来年には学会報告を行うつもりです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

前立腺ガン統計の疑問

Nihonnaikazassi本日届いた日本医師会雑誌(平成21年5月号)に「前立腺がんと前立腺肥大症の疫学」という生涯教育記事があり、読んでいて面白いことに気づきました。
その記事に掲載されていたデータをここでご紹介しましょう。
Ganyosokuガン患者数予測では、胃がん・肺がんに続く第3位です。
このままでは、前立腺ガンが第1位になるのもあと少しです。
胃・大腸などの管腔臓器(ホース状の臓器)と違い、前立腺は腎臓・肝臓・膵臓と同じく実質臓器(身が詰まった臓器)です。1990年までは、前立腺ガンの推移は、他の実質臓器のガン(腎臓ガン・肝臓ガン・膵臓ガン)と同じような推移をしています。ところが1995年から急激に増えています。
Ganranking平成17年各年代別ランキングでは、65歳以上の年齢層の第1位が前立腺ガンになっています。

Ganpca前立腺ガン死亡数の推移です。
死亡曲線の角度が、1980年と1990年の2か所で急激に変化しています。

Ganpcastage群馬県の前立腺ガンの確定診断割合の統計推移です。確定診断された患者さんの数について注目すると、
1990年300人未満
1995年400人未満
2000年600人未満
2005年1100人未満
となっています。つまり年を追うごとに確定診断されている患者さんが多くなっています。この推移は、おそらく日本全国で同じでしょう。
確定診断された患者さんの数が多くなった理由は、前立腺ガン腫瘍マーカーであるPSAが手軽に検査されたことと、前立腺針生検が頻繁に実施されて、組織診断が正確になされているからなのでしょう。
しかし、この統計をよく見ると、前立腺ガンの初期であるステージAの患者さんの割合が増えていないことに気付きます。増えていないどころか、割合的にはステージAの患者さんが減っているのです。これは不思議な現象です。
その反面、前立腺に広がっているステージB(赤い棒)の患者さんが、他のステージをはるかに抜いてダントツです。数も割合も増加の一途です。
上の死亡者数の推移とステージBの推移を比較してみて下さい。確定診断されてから患者さんがお亡くなりになるまでの目安を5年と考えて、確定診断患者さんの推移と5年ずらした死亡数の推移とが、微妙に一致しませんか?

内科でも安易に実施しされているPSA検査の数が増え、泌尿器科での針生検の数が増えるほど、前立腺ガンが原因で亡くなる患者さんの数が増えている証明のように思えてなりません。私は統計学は素人ですが、私の誤解であってほしいものです。前立腺ガンの診断技術が向上し、治療法が飛躍的に進歩しているにも関わらず、死亡者数が増えていくのは合点がいきません。泌尿器科医の努力が、前立腺ガン患者さんを増やし、前立腺ガンで亡くなる方を増やしているのであれば、恐ろしいことです。

例えば、天皇陛下は前立腺ガンで前立腺全摘出手術をお受けになりました。おそらくステージB以下の診断で、前立腺ガンが前立腺内にとどまっていると判断したのでしょう。しかし、結果は浸潤あるいは転移となり、現在ホルモン治療をお受けになっています。前立腺ガンと診断するためには、現在の常識では前立腺針生検を必ず実施しなければなりません。針生検を実施した時点では、少なくてもステージB以下だったのでしょう。しかし、針生検を実施したために、前立腺ガンは前立腺の外に放出されステージC・Dにアップグレイドしたのです。過去のステージを根拠に前立腺ガン手術を行いましたが、過去は過去ですから、時間の経過とともに再発・浸潤・転移という結果になったと考えても論理の飛躍にはならないでしょう。
触診あるいは超音波エコー検査・CT・MRI検査のみの診断で手術を行えば、ステージBのままで治療できた可能性があります。組織診断を行わない治療は、泌尿器科医にとってはあり得ない治療です。ハッキり分からなくても治療する勇気が必要になります。
Ganyosokuところが腎臓ガン・肝臓ガン・膵臓ガンなどは針生検を実施しないで手術になります。超音波エコー検査・CT・MRI・血管撮影だけで手術に踏み切ります。ですから、腎臓ガン・肝臓ガン・膵臓ガンの死亡者数の推移(患者数の推移とほぼ同じと考えて)はなだらかなのでしょう。前立腺は簡単に針生検ができることが裏目に出たのかも知れません。肺ガンも組織生検が気管支鏡で容易に行えますから、患者数が増加し、おそらくは死亡者数も同様に増加しているでしょう。

上記の統計から、前立腺ガンの死亡者数が増えたのは、単純に「前立腺ガンの自然増」だと言い切れるかどうか、統計の専門家の方で教えていただければさいわいです。自然増であれば、前立腺ガンのステージBだけが数においても割合においても増えるのは疑問です。とくにステージAの数が増えていないということは、PSA検査は初期の前立腺ガンに無力だということになります。
その際に、潜伏ガンの存在ガン転移についての考察を参考にしてください。

EBM(医学的根拠)を型どおり追求するあまり、患者さんに不利益を与えてしまったのであれば、本末転倒です。前立腺ガンの可能性が濃厚であれば、確定診断せずに見切り発車の治療を行っても許されるのか?と思えてしまう今日この頃です。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

マインド・マップ 前立腺肥大症編

Bphmap最近、マインド・マップなる思考テクニックに興味があり、実践しています。
そこで、その方法を利用して前立腺肥大症の全体像をまとめたのが、右のマップです。前立腺肥大症にまつわる問題点を列挙しました。
まずは、前立腺の大きさの問題です。
次に、組織型の問題です。
三番目は、診断方法です。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

前立腺肥大症の構造解析による分類

Bphtype0【機能性膀胱頚部硬化症または正常所見】
臨床現場では前立腺肥大症を大きさだけで分類しているのが今の現状です。
このような分類だと、前立腺の大きい患者さんだけが、めでたく「前立腺肥大症」と診断されますが、前立腺の小さい患者さんは「気のせい」「慢性前立腺炎」と診断されるのが落ちです。
排尿障害の成り立ちを深く理解すれば、前立腺肥大症の全貌が見えてくる筈です。
上のイラストは、前立腺をほぼ側面から観察した状態を示しています。2D画像で観察できる所見です。このような状態は、まったく正常か、あるいは機能性膀胱頚部硬化症であるかです。異常があっても形態学的異常が出現しなければわかりません。前立腺の大きさは15cc前後でです。

Bphtype1【狭い意味での純粋な前立腺肥大症】
膀胱頚部の能力が正常であって、前立腺が前立腺肥大症に変化した場合をイラストで示しまず。
このような前立腺肥大症は、排尿障害があっても前立腺肥大症の大きさに完全依存するので、思ったより症状が軽いのがこのタイプです。前立腺肥大症の排尿障害改善剤(ハルナール・ユリーフ)が効くタイプです。また、抗男性ホルモン剤(プロスタール)が効くタイプでもあります。

Bphtype2【器質性膀胱頚部硬化症】
機能性膀胱頚部硬化症から器質性膀胱頚部硬化症に進行し、形態学的にも変化が現れた場合のイラストです。
前立腺の大きさは正常(18cc前後)ですが、排尿障害が強く出ます。超音波2D画像では、膀胱三画部の肥厚所見が唯一つ手掛かりになります。「非細菌性慢性前立腺炎」と誤診されるのが、このタイプです。

Bphtype3【膀胱頚部硬化症+前立腺肥大症】
上記の状態に前立腺肥大症が加わると、前立腺が膀胱出口から膀胱内に進入するようになります。
しかし、直腸診で触れる前立腺は一部なので、正常と誤診されます。また、泌尿器科医が好んで実施する、経直腸式の超音波検査は、前立腺のみをターゲットにしていて、膀胱との位置関係を無視するので排尿障害を診断することができないのです。前立腺の大きさは20cc~25ccです。
このタイプも「非細菌性慢性前立腺炎」と誤診される可能性が高いタイプです。

Bphtype4【膀胱頚部硬化症+前立腺肥大症の進行(腺型の単独)】
上記のイラストからさらに進行すると、右のイラストになります。
前立腺の膀胱内への侵入・突出は著しい状態です。
膀胱出口の膀胱括約筋は、前立腺の侵入で周囲に団子状に変形し、もうこれ以上二進も三進も(にっちもさっちも)いかないくらいになっています。そのため膀胱括約筋は、弛緩することも収縮することもできずに、絶対的静止状態に陥り、排尿障害が強く出ます。ある意味、前立腺が膀胱出口に締め付けられている格好です。
超音波検査を実施すれば、容易に診断できますが、直腸診だけでは前立腺が大きく触れることが少ないので、「慢性前立腺炎」「過活動膀胱」と誤診されます。前立腺の大きさは30cc前後か、それ以上です。

Bphtype5【膀胱頚部硬化症+前立腺肥大症の進行(腺型と筋型の混在)】
前立腺の移行部からは線維筋性過形成と称する硬い前立腺肥大症が発生します。
これが前立腺部の尿道を取り囲む形になるので、排尿障害は一層強調されます。

構造解析により分類はしましたが、各タイプ間の中間的な形態も存在しますから、この通りだけではありません。いつもいろいろ考えています。現場で「フッ」と啓示されることもあります。そんな時に新しい理論が生まれますから、お楽しみに。

| | コメント (2) | トラックバック (0)

TUR-P手術後の排尿障害 「年のせい?」「気のせい?」

前立腺肥大症の内視鏡手術(TUR-P)を行なっても、10%~20%の確率で、排尿障害などの症状が改善しないことがあります。
その原因を「年のせい」「気のせい」「神経因性膀胱」とされています。しかし、内視鏡手術する前に「前立腺肥大症」だからと診断され、内視鏡手術すれば治ると断言された挙句に、「年のせい」「気のせい」では、手術を受けた患者さんも怒るでしょう。しかし、それが現実です。この10%~20%の患者さんを何とか救わなければ、意味もなくただ内視鏡手術しただけにしか過ぎません。医師から見れば、排尿障害の患者さんを手術することで『前立腺肥大症ではなかったのだ?』程度の原因チェックの手段でしかなりません。患者さんにしてみれば、たまったものではありません。

さて、今回、TUR-P内視鏡手術をおこなったが、尿意切迫感と排尿障害が治らないで、精神的に落ち込み、死すら考えた患者さんを紹介しましょう。
Bph22748m63letter2Bph22748m63letter_2
ある日、上記の内容のお手紙をいただきました。
お手紙の内容からは、医師は「機能的な障害だから治らない!」の一点張りです。これではお手紙の主も堪りません。まるで「自動ドアが壊れたから(機能的障害)、ドアが開きません」と言っているようなものです。一見正しいのですが、現実は、壊れた自動ドアでも直接手動で自動ドアは開くものです。「機能性=治療はお手上げ」などと考えないで、積極的に治療を行なうべきです。

まず、携帯電話で現状をお聞きしました。12月に入り、患者さんは来院されました。
確かに、患者さんの言われるとおり排尿障害を認め、3D画像で前立腺の削り残しと思われる所見を得ました。
後日、奥様同伴で来院され、再度の内視鏡手術を決め、12月17日に手術となりました。

Bph22748m632d右の写真は2D画像の超音波エコー検査の所見です。
一般の人が見ても分からないでしょうから、下の写真をご覧下さい。

Bph22748m632dpp三角で示された部分が、内視鏡手術で削り取られた部分です。TUR-P術後の一般的な超音波エコー検査所見です。十分に削られたと考えられます。

Bph22748m633d3ppこの画像は、膀胱側からの視点で観察した膀胱出口の3D画像です。
しかし、3D画像で確認すると、前立腺肥大症の腺腫が残っていることが分かります。

Bph22748m633dpp上の写真の反対、つまり尿道側からの視点でも、腺腫の残存を確認できます。
前立腺肥大症の腺腫には、柔かいタイプの「線維腺性過形成」と硬いタイプの「線維筋性過形成」に分類することができます。3D画像超音波エコー検査では、硬いタイプの「線維筋性過形成」しか描出されませんから、残存している腺腫は、硬い腺腫ということになります。ですから、排尿障害があったとしても不思議ではありません。

Bph22748m63op実際に内視鏡検査を行ったのが、この写真です。
正面の半円の針金が、直径5mmの電気メスのループです。6時方向に見えるのが、精液の噴出孔である精丘です。電気メスのループが当っているのが、左右に残された前立腺肥大症の腺腫です。3D画像のとおりの所見です。中央のすき間が尿路です。ループの針金の太さが0.4mm程度ですから、いかに狭いか理解できます。

Bph22748m63op2TUR-P手術直後の所見です。
余分な腺腫は除去しましたから、尿路は十分確保されました。「機能障害だ!」と主張していた医師の顔が見たいものです。

Bph22748m632d2術後の2D画像です。
術前の2D画像と比較して、顕著な差異は認められません。よ~く観察すると、削った部分が、術前と比較して深くなっています。前立腺石灰(結石)の位置と比較すると分かります。

Bph22748m633d4しかし、3D画像で比較すると、ハッキリ違いが分かります。
膀胱側からの視点では、術後、左右から突き出ていた腺腫が消失しています。

Bph22748m633d2尿道側の視点でも、わずかに腺腫が残っているのみで、術前と比較して、膀胱出口は十分に開放されました。

患者さんは、それまでトイレの便器の前で尿を出そうと息んでも、実際に出るまで5分以上かかっていました。それが手術後5日目では、30秒ほどの息みで排尿できるようになりました。常に感じていた残尿感も消失しました。

Bphmicrotissue2手術中に採取した組織は、右写真の前立腺の腺組織はほんの一部(全体の10分の1以下)だけでした。

Bphmicrotissue3採取した組織のほとんどは、線維と平滑筋がビッシリと詰まった「線維筋性過形成」でした。薄紫が線維組織で濃い紫が平滑筋です。「ビッチリ」という感じでしょう。この組織がほとんどあれば、硬いのもうなずけます。3D画像で予想したとおりです。

Bphmicrotissue【標準病理学 医学書院より】
前立腺肥大症の2タイプの組織像です。図aの腺性過形成が「線維腺性過形成」で、図bの間質性過形成が「線維筋性過形成」を意味します。腺組織の集合体はスポンジのようなものですから、柔かいはずです。この患者さんから採取した組織は、硬い「線維筋性過形成」であることがわかります。

有名病院などで前立腺肥大症の内視鏡手術の結果、症状がまったく軽減しない方々、あきらめないで下さい!ご覧のように治る可能性はあります。機能性の代表的な排尿障害の病気である神経因性膀胱も手術で治しています。(正確には、機能性は治りませんが、機能性が原因の排尿障害は治せます。壊れた自動ドアを手動で開けるイメージです。)

【補足】
今回の原因は、過去の内視鏡手術で精丘の周囲の腺腫を残したことに原因します。柔かい「線維腺性過形成」であれば、問題ないのですが、硬い「線維筋性過形成」の場合には、排尿障害の原因となります。
精丘のそばには、尿道括約筋が存在するので、術後尿失禁を警戒する余り、削り残すことがあります。今回の患者さんの例も、その典型でしょう。もしも、術後尿失禁が心配で精丘周囲を執刀医としてどうしても残したいのであれば、残しても良いですから、もっと薄く削り残せばよかったのです。いかんせん残った腺腫が厚過ぎました。しかも二人の医師が診察・検査して「機能性」と断言している訳ですから、ある意味、単純なデジタル思考(前立腺肥大症を削って治らないのは機能性と短絡的に思考する)の未熟な医師だったのでしょう。しかし、患者さんにとってみれば、未熟では済まされません。もっと論理的に思考し、手術の技術を研鑽すべきです。未熟な技術を机上の空論でカバーするのは止めましょう・・・私も気をつけなければ・・・明日は我が身ですから。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

PSAは前立腺癌を反映しない?

Psaiwamurowada以前に前立腺癌の潜伏癌(ラテント癌)の潜在率について、和田先生の文献を参考に考え方をご紹介しました。
今回、「臨床泌尿器科」という医学雑誌に、和田先生の文献を引用した意見を見つけたので、ここでご報告します。
要約すると、PSA高値のために前立腺針生検まで検査が進んだ患者さんの前立腺癌発見率は、潜伏癌・ラテント癌の潜在率とほぼ同じで、PSA検査の存在価値があるのか?というものです。

【補足】
和田先生が、このたび(平成20年7月8日)大田区中央で開業されました。和田医院です。前立腺癌で相談のある方は、お薦めします。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

奇異性尿失禁 Paradoxical incontinence

奇異性尿失禁(きいせい・にょうしっきん)という言葉をご存知ですか?別名、溢流性尿失禁(いつりゅうせい・にょうしっきん)ともいいます。
教科書的には次のような記載になっています。

「溢流性尿失禁 overflow incontinence
尿閉になり、最大膀胱容量と残尿量が同量となり、有効膀胱容量がゼロになって、常時尿が尿道より漏れる状態である。
膀胱内に尿を保持できるが、排尿できずに尿が漏れ出る状態であり、尿を保持できない尿失禁とは異なり、奇異性尿失禁 paradoxical incontinenceともいわれる。
骨盤内末梢神経損傷による神経因性膀胱、高度な前立腺肥大症により慢性尿閉となった場合などが原因である。」

1回読んで理解できたなら、貴方は泌尿器科専門医です。2回読んで理解できたなら、貴方は一般の医師クラスの頭脳です。何回読んでも理解できなければ、貴方は常識人で、本当の意味での理路整然とした科学的な論理的な頭脳をお持ちの方です。

教科書でも専門書でも、この「奇異性尿失禁」については、これ以上の詳細な解説はありません。「オシッコが出ないのにオシッコが漏れてしまう」現象をこの程度の解説で理解しろという方がどだい無理な話です。
神経因性膀胱や前立腺肥大症などに高度な排尿障害があるのは理解できます。排尿障害で出口が開かないのに、同じ出口からオシッコが通過して漏れる出るのです。まるでワープ航法です。「どこでもドア~」があるようです。そこには何か手品のような仕掛けがきっとあるのです。その仕掛けが分からないままに、現実にそのような現象が起きるからと、医師がまる覚えしてしまったところに、臨床医学のいい加減さ・非科学性があるのです。

なぜ突然、このような話をしたのかというと、今まで疑問であった「奇異性尿失禁」が、今日初めて、氷解したのです。ある患者さんの来院を機会に・・・。

この患者さんは66歳男性です。
3年も前から地元の市立病院で、「前立腺肥大症+慢性前立腺炎」の診断で治療を受けています。
症状は、1日10回の頻尿と寝てから3回の夜間頻尿です。
さらに尿失禁があります。トイレが間に合わなくて漏らしてしまう切迫性尿失禁と、無意識に漏れてしまう問題の奇異性尿失禁があります。
主治医は、前立腺肥大症+慢性前立腺炎の診断で、アビショット、ポラキス、八味地黄丸、ベシケアなどの薬を次々に換えて処方しますが、症状の改善をみません。知人が私のクリニックで治療して経過が良かったので、紹介されて本日(5月27日)来院されました。
Nb22123m66診察台に寝ていただいて腹部を観察すると、右腹直筋部が盛上がっています。やせた男性ですから目立つのです。オシッコを特に我慢している訳でもありません。腹壁ヘルニア?と思ったほどです。

Nb22123m665超音波エコー検査を行なったのが、右の画像です。
黒い部分が尿です。白いラインが膀胱壁です。膀胱壁にキノコのような形態の物ががいくつも確認できます。何だと思われますか?

Nb22123m666正体は「肉柱」です。
強い排尿障害の際に確認される膀胱平滑筋の肥大所見です。この患者さんの3D画像では、ご覧のように縦横に走る肉柱の走行が明確に確認できます。肉柱を確認した時には、強い排尿障害があると判断しなければなりません。

Nb22123m663尿流量測定ウロフロメトリー検査を行なったのですが、16mlしか排尿できません。
患者さんは自覚していない慢性的な尿閉状態です。カテーテルを挿入して採尿したところ全部で670ml!です。

Nb22123m662結果、お腹はペッタンコです。腹壁ヘルニアではなかったのです。
この患者さんは、前立腺肥大症あるいは神経因性膀胱の慢性尿閉と診断されるのが、普通であれば妥当な診断でしょう。
ここまでは、プロローグです。
Nb22123m664さて、奇異性尿失禁について話を戻しましょう。先ほどの肉柱を確認した2D画像を前立腺部に視点を移動したのが右の画像です。
左側が膀胱・前立腺を側面から見た状態、右側が膀胱・前立腺を正面から見た状態の画像です。
膀胱と接している部分が「くさび形(側面像ではバナナ型・正面像ではV字)」に開いています。ちょうど前立腺部尿道です。排尿障害による尿閉状態であるのに膀胱出口が開いているのです。つまり膀胱括約筋が働いていない状態ですから、尿を保持しているのは外尿道括約筋だけになります。
尿の保持は膀胱括約筋(内尿道括約筋)と外尿道括約筋の2つの筋肉が一丸となって頑張っていますから、1つの筋肉だけでは力は50%~20%に激減するので、尿失禁があっても不思議ではありません。
Nb22123m669右の図を使って説明しましょう。左と中央の図は正常な状態を示します。
一番左の図は尿がそれ程たまっていない場合の下部尿路の状態です。膀胱括約筋と尿道括約筋が協力して尿を保持しています。中央の図は尿がかなりたまった場合の下部尿路の状態です。尿道活躍筋はそのままですが、膀胱括約筋は自律神経反射でさらに収縮して閉鎖力を強くします。また膀胱内圧の上昇が膀胱括約筋を圧迫して閉鎖力を補助してくれます。
ところが、基礎疾患として前立腺肥大症などがあると(右の図)、膀胱括約筋は膀胱出口の周辺に追いやられ完全に伸び切っています。そして膀胱壁と一体化していて、尿の貯留によって引き伸ばされた膀胱壁によって膀胱括約筋も開く方向に牽引されます。
前立腺が正常であれば、この程度で前立腺部尿道は開きませんが、前立腺肥大症で硬くなっていると、まるで無機質構造物のように他動的に前立腺部尿道は開いてしまいます(2D画像を参照)。
前立腺が大きい場合や膀胱容量が多い場合には、膀胱と前立腺が一体になって本来の解剖学的位置よりも下方に下がります。すると尿道括約筋の働く最適なポジションではなくなるので閉まりが悪くなります。
結果、膀胱括約筋と尿道括約筋が働くことができなくなるので尿失禁になります。
Nb22123m6610カテーテルを挿入し尿を400ml抜いた後の2D画像です。
270ml膀胱に尿がたまっている状態です。先ほどの2D画像と比較して、前立腺部尿道が閉じているのが確認できます。この患者さんは300ml以下では膀胱出口は開かないことが分かりました。
前立腺の大きさは21ccで正常の大きさ(20cc~25cc)で、一般的な前立腺肥大症の大きさではありません。
Nb22123m667この状態で3D画像を見てみると左の所見になります。膀胱出口がいびつな形です。
正常な場合には膀胱出口は正円ですから形態異常になります。
Nb22123m668同じく3D画像を反対方向から観察したのが左の所見です。
膀胱出口が「ひょうたん」のように変形し、その周囲の輪郭が硬く見えます。いわゆる「膀胱頚部硬化症」です。

さて、これから本題です。
この患者さんは前立腺部尿道が開いているにもかかわらず、16mlしか排尿できませんでした。立位で排尿する場合は、前立腺部尿道はもっと開大していますから、さらに排尿しやすい筈です。「漏れるのに、出そうと思うと出ない」つまりは「奇異性尿失禁」の状態です。
Nb22123m6611_3左の図を使って説明しましょう。
左側の図は、膀胱いっぱいに尿がたまった状態で尿が漏れる仕組みを示した図です。
右側の図は、自分の力で排尿しようとしても排尿できない仕組みを示した図です。
排尿しようとすると、尿道括約筋の作用によって前立腺の先端部を下方に下げながら開こうとする力がかかります。その力は膀胱括約筋も引張り前立腺全体が下方に下がります。前立腺はもともと解剖学的に小骨盤腔の非常に狭い空間に存在します。前立腺は下降するとさらに狭い空間に押しやられ、前立腺全体に外側から強力な圧力がかかり、膀胱出口は閉じてしまうのです。この状態になると前立腺の大きさはほとんど無関係です。前立腺の位置がポイントになるからです。この患者さんの前立腺の大きさは21ccと小さい方でした。

ここまで解説して初めて「奇異性尿失禁」が理解できたことになります。
「溢流性尿失禁 overflow incontinence
尿閉になり、最大膀胱容量と残尿量が同量となり、・・・奇異性尿失禁 paradoxical incontinenceともいわれる。骨盤内末梢神経損傷による神経因性膀胱、高度な・・・原因である。」
という先の解説が、言語明瞭意味不明の解説であったかをあらためて知ることになるのです。

さて、今回の患者さんは、これからどのようにして治療すればよいのでしょう。
まずは尿路確保のために、カテーテルを留置しました。カテーテル排出口にキャップを装着して、定期的に(2時間~3時間毎に)排尿してもらうようにしました。常に700ml近い残尿があったので、膀胱そのものが疲弊しています。尿路を確保することにより膀胱の機能をいったん回復させるのです。
残尿が非常に多い状態でアビショット(α-ブロッカー)を服用しても効きません。カテーテル留置で慢性的な残尿をなくすことで、α-ブロッカーが効くようになります。3週間後にはカテーテルを抜き自尿できるかどうかを判断します。
それでも改善しないのであれば、膀胱頚部の硬化部を切除・切開します。


| | コメント (0) | トラックバック (0)

前立腺肥大症の症状 朝一番のオシッコが直ぐに出ない

Bnopen3_2膀胱三角部の重要性に関しては、慢性前立腺炎のページで「膀胱三角部の重要性#1」とページをあらため「膀胱三角部の重要性#2」に詳細に解説しました。前立腺肥大症の手術をされても改善しない方は、上記のリンク先を参考にご覧下さい。改善しない理由を解説しています。
ここでは、前立腺肥大症の患者さんの訴えで、「朝一番のオシッコが直ぐに出ない」という症状について、膀胱三角部と関連して解説します。
右図は、前立腺肥大症の患者さんの下部尿路の余り溜まっていない状態での排尿を示すイラストです。
前立腺肥大症(緑に着色している部分)のために、膀胱三角部(赤く着色している部分)は伸縮性に欠けます。

朝、尿がいっぱいに溜まったオシッコ直前の状態は・・・
Bnopen5右図のイラストの如くです。
膀胱に尿がたまると、膀胱の前には恥骨が存在しますから、膀胱は赤い矢印の後ろ側(直腸側)に膨らみます。膀胱が膨らむと、輪状筋脚と輪状筋がやはり赤い矢印の後ろ側に引張られます。
膀胱出口の前に位置している輪状筋が後ろ側に引張られ、膀胱出口は塞がれる格好になるので、膀胱に尿が溜まり過ぎる朝一番のオシッコの時には直ぐに出ないのです。

現在、前立腺肥大症でこの症状がある患者さん、主治医の先生に朝一番のオシッコがどうして出にくいのか質問して御覧なさい。明快に答えることができる医師はいない筈です。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

前立腺肥大症の2つのタイプ

超音波エコー検査の2D画像と3D画像を比較していくうちに、「?」と気がつくことがありました。
大きな前立腺肥大症が、2D画像では同じように見えても、3D画像では2つのタイプが存在するように見えるのです。
超音波エコー検査機器の特性(機器内のソフト特性)でそのように見えるのかも知れません。たまたま、同じものが、何かの条件で違った所見として捉えられるのかも知れません。超音波エコー診断装置で3D・4Dの複雑なソフトというフィルターを通過してきた情報ですが、思わぬ発見をしたのです。
機器による幻覚かもしれませんが、機器にだまされたと思って信じ、仮説を立て考察してみました。
Bphbns21378m743【タイプ1】
74歳の男性患者さんです。地元の社会保険病院の泌尿器科で、10年前から前立腺肥大症で治療を受けています。ハルナールを服用していますが、日中9回、夜間4回の頻尿があります。
前立腺ガン腫瘍マーカーであるPSAが25と高値になったので、過去に3回も前立腺針生検を行なっていますが、いずれも異常なしの結果です。
セカンド・オピニオンで来院されました。
超音波エコー検査2D画像では、膀胱に突出した前立腺肥大症を認めます。大きさは約70ccで正常(20cc前後)の3倍以上の体積です。明らかに大きな前立腺肥大症です。
側面像でくびれている部分が膀胱出口で白く見えるのが前立腺結石です。

Bphbns21378m74超音波エコー検査3D画像の膀胱側から観察した所見です。膀胱出口の小さな穴が確認でき、その周囲を盛上がった前立腺が確認できます。

Bphbns21378m742超音波エコー検査3D画像で、上の画像の裏側から観察した所見です。
不思議に見えませんか?洞窟のように伽藍堂です。所どころに観察できる塊は前立腺結石です。洞窟の奥が行止まりになっていて、わずかながらスリットが入っています。それが膀胱出口でしょう。
2D画像で確認できる前立腺は、3D画像では透明になり、そのスペースが空虚な洞窟として描出されます。
3D正面像で盛上がっていたのは、前立腺肥大症そのものではなく、膀胱粘膜?なのです。

Bph21272m744_2【タイプ2】
74歳の前立腺肥大症の男性患者さんの2D画像です。
2D画像からは、【タイプ1】の患者さんと同様に、前立腺肥大症が膀胱内に突出している所見が確認できます。
前立腺の大きさは約77ccと巨大です。

Bph21272m743D画像の正面像です。
【タイプ1】の正面像と比較して「?」ではありませんか?
正面から観察しているのに、膀胱粘膜で覆われた所見ではなく、洞窟、洞穴のように空虚なスペースが直接観察できます。
この画像からは次のことが分かります。
この大きな空洞が前立腺そのものとすれば、膀胱三角部まで巻き込んでいます。すると左右の尿管口は圧迫されますから、腎臓から膀胱への尿の流れが悪くなる筈です。
患者さんは、案の定、他の医療機関で水腎症を指摘されています。排尿障害があるから水腎症になったと診断されて、1日4回の自己導尿を強いられています。しかしよくよく考えてみると、自己導尿を行い残尿を減少させても、前立腺肥大症による尿管口の物理的圧迫ですから、水腎症は治らないことになります。

以前に前立腺肥大症について説明に使用したMRIの患者さんの前立腺肥大症は、このタイプでしょう。当時は3D4D超音波エコー機器がなかったので、この検査で確認することはできませんでした。

【考察】
Bphbns21378m744Bphbns21378m74
【タイプ1】の患者さんの3D画像をここで改めて詳細に観察すると、前立腺の突出した周囲が凹んで見えます。緑に着色した部分です。ここは凹んでいるのではなく、実は前立腺で3D上は透明に見えている部分なのです。

Bphbns21378m745_2Bphbns21378m742
上の写真の裏側から観察すると、前立腺の部分が正面の行止まりの周囲を回り込むように見えます。上の写真の凹んで見える部分に当たります。
Bphbns21378m746これら一連の写真から、前立腺と膀胱との勢力争いが見えます。
前立腺肥大症で前立腺が次第に大きくなると、前立腺は膀胱に向かって成長します。膀胱は前立腺の浸入を抑えようと膀胱出口周囲の膀胱平滑筋が発達してきます(赤い矢印)。そして前立腺の中心線に向かって覆いかぶさるように伸展発達します(黄色い矢印)。

Wnlmorifice・・・と単純に画像を理解していましたが・・・よくよく考えてみると、前立腺は元来膀胱の直下に位置していますから、膀胱平滑筋が前立腺に覆いかぶさっているのは当たり前です。膀胱平滑筋が伸展発達したとして考えるのには違和感を覚えます。
右の画像は、排尿障害のない男性の正常像(実は55歳の私のものです)です。前立腺は腫れていないので、膀胱下からの前立腺の隆起がほとんどありません。膀胱出口もこじんまりと小さく観察できます。膀胱出口は膀胱尿道移行部ですから、3D画像では、この程度の穴として観察できます。(実際は閉じていますが、尿道の厚さ分だけ透明に穴として観察できるのです。)

心理学のテストと同じで、見方を変える必要はあります。すると異なる本当の姿が見えてきます。
Bphbns21378m747前立腺が見える部分(赤い実線)は、膀胱平滑筋が裂けて前立腺が顔を露出して透けて見えるのだと考えると納得がいきます。そのように考えると、この画像からは膀胱出口周囲の膀胱平滑筋は3分の2は裂けたのだといえます。赤い点線の部分は、これから裂けつつあるくぼみなのかも知れません。
緑の矢印の部分は、膀胱平滑筋の縦走筋でしょう。縦走筋は膀胱出口を開くためにあるのですが、膀胱出口周囲の3分の2は切られてしまったと考えると、この患者さんの縦走筋による膀胱出口の開かせる能力は、一般の男性の3分の1以下(33%以下)ということになります。

また、膀胱平滑筋が裂け、前立腺が露出している周囲の盛上がりが気になります。これは膀胱平滑筋が裂けてその断端が団子状に固まった姿かも知れません。膀胱平滑筋が裂けていない周囲の膀胱平滑筋が平坦であることからも想像に間違いはないでしょう。そのような膀胱平滑筋の盛上がりは、機能的には何の役目も果たさないです。

さて、これでは膀胱の本来の力だけでは排尿は十分にできません。そのため腹圧をかけて力んで何とか排尿することになるのです。膀胱出口周囲にわずかばかり残されている膀胱平滑筋は孤軍奮闘頑張っているので、一見してマッチョです。最後のあがきにも見えます。

このように前立腺の膀胱内成長を抑えるように膀胱平滑筋が発達したのが【タイプ1】で、前立腺の膀胱内成長を容易に許してしまったのが、膀胱平滑筋の発達が前立腺周囲にとどまる【タイプ2】なのです。


Bphtypeイラストの青い大きな円が膀胱、緑のだ円が前立腺肥大症です。赤い部分が発達した膀胱平滑筋です。

Bphtypearrow_2タイプ1では前立腺の上に膀胱平滑筋が覆って、前立腺の浸入する力(緑の矢印)と膀胱平滑筋の抑え込む力(赤の矢印)が均衡状態です。
タイプ2では膀胱平滑筋が前立腺に道をゆずるように前立腺が膀胱に浸入(緑の矢印)しています。

イラストから患者さんの症状を予想すると次のようになります。
タイプ1は、発達した膀胱平滑筋が前立腺を覆っていますから、排尿時に容易に開いてくれるとは思えません。そのため「出が悪かったり」、「すぐに出なかったり」の症状があるでしょう。
タイプ2は、膀胱出口に前立腺が顔を出しているので、排尿はそれ程苦もなくできるでしょう。しかし膀胱出口周囲に発達した膀胱平滑筋とのバランスで、排尿中に膀胱出口の振動のため、膀胱三角部が刺激されて頻尿・残尿感・夜間頻尿の症状があるでしょう。

Bph3typearrow上のイラストをジッと見ていたら、右のイラストのようにも考えられることが分かりました。
つまり、タイプ1とタイプ2はそれぞれ独立した形態ではなく、タイプ1からタイプ2へ移行した、あるいは悪化したとも考えられるのです。その移行期をタイプ1.5として表現しました。
今回、タイプ1で紹介した実例は、亀裂が入っていることにより、タイプ1.5と表現した方が的確かも知れません。


★観点の違いにより、次のように名称を考えました。
------------------------------------------------------------------------
観点の違い   3D画像   解剖学的観点   膀胱平滑筋から
------------------------------------------------------------------------
タイプ 1:   キャップ帽型   正常解剖型    浸入阻止型
------------------------------------------------------------------------
タイプ 2:    ドーナツ型    貫通型       開放型
------------------------------------------------------------------------

★予想可能な臨床的違いは、次のようでしょう。
------------------------------------------------------------------------
臨床的違い α-ブロッカー  PSA値  
------------------------------------------------------------------------
タイプ 1:  α1dが効く    高い   前立腺ガンと誤診
                         結果、何回も針生検
------------------------------------------------------------------------
タイプ 2:  α1aが効く    正常   
------------------------------------------------------------------------

★予想可能な臨床症状の違いは、次のようでしょう。
------------------------------------------------------------------------
臨床症状の違い  臨床症状  前立腺大きさ
------------------------------------------------------------------------
タイプ 1:   ポタポタ・出難い  小さい 慢性前立腺炎と誤診
------------------------------------------------------------------------
タイプ 2:   頻尿・残尿感    大きい
         会陰部痛     小さい場合は慢性前立腺炎と誤診
------------------------------------------------------------------------


ではタイプ1とタイプ2とでは、どちらが重症なのか?は、現時点では不明です。これから、このような観点で観察すればハッキリするでしょう。

Bph77m183732【実例】
77歳前立腺肥大症の男性です。前立腺の大きさは61ccです。
【タイプ1】です。
Bph3d12027m6833cc【実例】
68歳前立腺肥大症の男性です。前立腺の大きさは33ccです。
【タイプ1】です。
Bph18108m633d【実例】
63歳前立腺肥大症の男性です。前立腺の大きさは33ccです。
【タイプ2】です。
Bph3d11624m5037ccpsa49【実例】
50歳前立腺肥大症の男性です。
前立腺の大きさは37ccです。
【タイプ2】です。

Bph21394m7159cc【実例】
71歳男性です。夜間5回の頻尿です。日中は10回です。
前立腺の大きさは59ccです。
【タイプ1】です。

Bph21394m7159cc2上記の画面から深部にピントを合致させた所見です。
膀胱平滑筋が尿道に沿って二枚貝のように前立腺内に浸入しているのが判別できます。

いかがですか?前立腺肥大症のタイプが容易に判別できるでしょう。大学病院の泌尿器科医でさえ知りえない事実をあなたは理解し会得したのです。
外観だけでは支離滅裂・一貫性がないように思える現象も、ひとたび理由が分かれば、その姿形に規則が見えるのです。
その昔、お釈迦様が「ハッ?!」と悟りを開いた一瞬は、このような想いだったのかも知れません。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

PSA検診の動向

PSAとは、前立腺ガンの腫瘍マーカーです。
腫瘍マーカーとは、特定のガンに呼応して数値が変動する生体検査を意味します。
血液中PSAは、正常値が4.0以下ですが、前立腺ガンの存在で4.0以上の値になり、10.0以上で前立腺ガンはほぼ90%以上の確率で存在します。
住民健診で、前立腺ガン検診(PSA採血)を行なう自治体が増えつつあるのですが、それを否定するような研究結果が下記の記事のように出たのです。
前立腺ガンが存在しても死なないという潜伏ガンについて、以前に説明しました。
その事実と照らし合わせて考えてみると・・・どちらの意見が正しいのか?・・・面白いでしょう。

*************************************************************************
前立腺がん厚労省研究班、分裂…5人脱退へ 泌尿器科医、検診否定に反発

記事:毎日新聞社

【2007年10月16日】
前立腺がん:厚労省研究班、分裂…5人脱退へ 泌尿器科医、検診否定に反発

 前立腺がん検診の有効性を検討する厚生労働省研究班(主任研究者、浜島ちさと・国立がんセンター室長)が、「PSA(前立腺特異抗原)検査による集団検診は勧められない」との報告書案をまとめたことに関し、メンバーや研究協力者の泌尿器科医5人が研究から脱退する意向を示していることが分かった。「内容に責任を持てない」ことが理由。PSA検査による集団検診は市町村の7割が実施しており、研究班の分裂は自治体に混乱を招きそうだ。

 研究班は主任研究者と分担研究者9人(うち泌尿器科医1人)で構成。研究協力者11人(同4人)も研究に参加する。脱退を表明した5人はいずれもPSA検診推奨の立場を取る日本泌尿器科学会の会員。連名で研究班に文書を送り、脱退のほか、今月末完成予定の報告書に名前を掲載しないことも求めている。

 分担担当者で脱退を表明した伊藤一人・群馬大准教授は「議論は最初から結論ありきで泌尿器科医の意見は受け入れられなかった」と話す。一方、浜島室長は「議論を重ね、経緯も報告書に盛り込まれている」と説明する。

 PSAは、前立腺の組織が壊れると血液中に漏れ出るたんぱく質。報告書案は、国内外の研究論文を評価した結果から、「PSA検査を使った集団検診に、死亡率減少効果があるかどうかを判断する根拠が不十分だ」とした。一方、泌尿器科学会はPSA検診を推奨する見解を表明し、学会独自の前立腺がん検診の指針を刊行する準備を進めている。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

1日4回の自己導尿

福島県在住の74歳の男性患者さんです。
人間ドックで両側の水腎症(すいじんしょう:尿の流れに障害があり腎臓がパンパンになること)を指摘され、地元の有名な病院の泌尿器科で精密検査したところ、「神経因性膀胱」と診断されました。
要するに膀胱に力がないための排尿障害と診断されたのです。治る病気ではないと告げられ、今年の4月から毎日4回~5回の自己導尿(じこどうにょう:自分で尿道から膀胱へカテーテルを挿入して排尿すること)を指導されて行なっているそうです。
患者さんは何とかならないものかと高橋クリニックを受診しました。

Bph21272m7442D超音波エコー検査では大きな前立腺肥大症を認めます。
その大きさ、何と77cc!、正常の大きさが25cc以下ですから普通の男性の3倍以上の容積です。
誰が何と言おうと押しも押されぬ立派な前立腺肥大症です。

Bph21272m743D正面画像です。
ゲイン(感度)を調節して前立腺組織は透けていますから、大きな洞窟が見えます。

Bph21272m742メジャーで洞窟の中ごろを間口と高さで測ると、4.37cm×2.65cmです。手前の方がもっと広いですから、膀胱内に突出した前立腺肥大症ということが分かります。
Bph21272m74enhance上図を線画風に強調したのがこの写真です。
★印が膀胱平滑筋の肥厚した部分です。
前立腺内にまで膀胱平滑筋が浸入しているようにも見えます。

Bph21272m7433D背面画像では、最大径で同様に4.78cm×4.36cmというかなりの広さです。
さらに詳細に観察すると、2時と10時~8時の位置にシコリが確認できます。恐らく膀胱平滑筋の肥厚でしょう。
Bph21272m743enhance上図を線画風に強調した写真です。
★印が膀胱平滑筋の肥厚したと思われる部分です。
膀胱側から尿道側まで肥厚した膀胱平滑筋が浸入しているように見えます。前立腺内の平滑筋が肥厚したという話は聞いたことがありませんし、前立腺肥大症そのものが3D画像では透明になるので、このようには描出されません。
前立腺肥大症というと、前立腺の大きさしか議論されませんでしたが、3D画像の登場により、画像による前立腺肥大症の分析が詳細にできます。
これにより、きめ細かい治療法が確立するかも知れません。
例えば、肥厚した膀胱平滑筋にボトックス注射をするのです。むやみやたらに注射するに比べたら、効果も絶大でしょうし、副作用も出ないでしょう。

排尿障害は神経因性膀胱が原因ではなく、容積77cc(重量77g)という前立腺肥大症からくるものでしょう。
たとえ、神経因性膀胱があったとしても、結論を出すのは前立腺肥大症の治療を行なってからの判断です。
この主治医は初めから神経因性膀胱という誤診で治療した可能性があります。1日4回の自己導尿を患者さんに科すという重大な過ちを犯したことになります。

取りあえずα-ブロッカー(ユリーフ)を1ヶ月処方して様子を見ることにしました。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

前立腺肥大症の3D画像

最近の私のマイブームは、3D・4D超音波エコー検査を利用して、膀胱出口の表情を観察することです。
思いついたきっかけは「慢性前立腺炎」に購入するまでの経緯に関しては「開業医こぼれ話」に掲載していますから、詳細はそちらをお読み下さい。
さてさて、膀胱出口の表情を見ることに何の意味があるのかお分かりにならないと思いますから、下に実例を上げましょう。

Bph18108m632d_2【実例】
この写真は、63歳前立腺肥大症の患者さんの超音波エコー検査の普通の側面像です。
一般的に超音波エコー検査は2D画像で2次元写真になります。見慣れている医師であれば、前立腺の大きさだけではなく膀胱出口付近の硬さを想像できますが、素人には分からない写真でしかありません。

Bph18108m633d_2右の写真は、同じ患者さんの超音波エコー検査3D画像(立体画像)です。
真ん中の洞穴のように見える中心が、膀胱内から見た膀胱出口です。
膀胱出口は単純な穴ではなく複雑です。周囲も堤防状のようになり、まるでドーナツかカルデラ火山のようです。

Mtaso【宇宙から見たカルデラ火山の代表:阿蘇山】
上記の超音波エコー検査写真よりも立体的で、膀胱出口周囲の表情が分かりやすくなっています。
しかし、初めてこの写真を見せられて、尿が出にくいと即理解はできないでしょう。そこで下の写真を見てください。

Nml3d8000【実例】
この写真は、50歳代の排尿障害のない男性の膀胱出口周囲の3D画像です。
正常な画像と考えてよいでしょう。上の前立腺肥大症の3D画像と比較して、中心に見える膀胱出口が小さくありませんか?本来、膀胱出口は排尿中以外は閉じているべきものですから、小さくて当たり前です。
しかし、前立腺肥大症の患者さんの写真で、膀胱出口が大きく観察できます。それは膀胱出口が大きくなっている訳ではなく、膀胱出口周囲が前立腺肥大症のために隆起して、相対的に膀胱出口が落ち込んでしまい、一見膀胱出口が大きく見えるだけなのです。

Bph3d11624m5037ccpsa49【実例】
50歳男性で健康診断で前立腺癌腫瘍マーカーPSAが4.9(正常値4以下)と指摘されて来院した患者さんの3D画像です。
前立腺肥大症特有のドーナッツ状あるいはカルデラ火山状の膀胱出口の所見です。
排尿障害が存在するために、PSAが上昇するのです。前立腺癌のためではありません。
ちなみに前立腺の大きさは37cc(正常25cc以下)ですから、前立腺が大きいことも理由になります。
上の正常の形態と比べても、一目瞭然でしょう。明らかに硬いという印象です。
Bph2d11624m5037ccpsa49この2D画像は、上の3D画像の側面像です。この普通の2D画像から、3D画像の立体的な画像を想像できますか?私は想像できません。
通常、超音波エコー検査の場合、その特徴を一番強く表現している画像を忙しい診察・検査中に記録として残します。すると残した画像に患者さんの病気の状態を印象付けられてしまいます。これが誤診の原因になるのです。

PSAが上昇する原因として、前立腺癌の他に、前立腺肥大症や慢性前立腺炎が上げられます。
前立腺肥大症が原因の場合は、前立腺の大きさがPSA上昇と検討されますが、私は大きさよりも3D画像のようにオシッコが出にくい形をもっと議論した方が的を得ているのでは?と思っています。

Bph2d12027m6833cc【実例】
68歳男性の2D画像の前立腺の所見です。
夜間頻尿が6回、日中15回以上の頻尿です。前立腺が膀胱内に突出しているのが分かります。
前立腺の大きさは33ccと中くらいの大きさです。前立腺の大きさからいえば、気のせいですと言われてしまいかねない大きさです。
上の写真の2D画像と側面像は似ていますから、カルデラ火山を想像できますね。

Bph3d12027m6833cc上の写真の3D画像では、予想に反してカルデラ火山ではなく、富士山を上空から眺めたイメージでしょう?膀胱出口が硬くすぼまっているのが容易に理解できます。

Mt_fuji【国際宇宙ステーションから見た富士山】
2D画像では同じように観察できても、立体的には全く異なる印象になります。
富士山とカルデラ火山では外見上は全く異なる火山です。2D画像と3D画像の表現する目的が異なるのです。
前立腺を大きさしか判断しない検査に疑問を感じませんか?

Bph3d18735m89【実例】
手術するにはタイミングがあります。
この3D写真は何か分かりますか?
実は89歳の男性です。ある国立病院で前立腺がとても大きく(100cc以上)手術を選択されずに、膀胱カテーテル留置になった患者さんです。
3週間から4週間に1回カテーテル交換を行なっています。前立腺が100cc以上とかなり大きく、年齢のこともあり、現時点では私も手術に積極的にはなれません。
Bph3d18735m892d通常の2D画像です。
膀胱・前立腺を側面で観察した所見です。
この患者さんは国立病院で前立腺肥大症用の尿道ステントを留置しましたが、結局思うように排尿できず、尿路感染が取れず、ステントを留置したまま膀胱カテーテルを設置されたのです。

Bph3d18735m89memo棒のように上から降りているのが、膀胱留置カテーテルの先端部です。
その下に白い塊は膀胱内にできた膀胱結石です。高橋クリニックに来院当初から結石は認めています。

Coagulatampon12518m723【実例】
何でしょう?

Coagulatampon12518m72何でしょう?

Coagulatampon12518m722何でしょう?
回答は、ここをご覧下さい。

Bph77m183734【実例】
77歳男性の前立腺肥大症の2D画像です。前立腺の大きさは58cc(正常25cc以下)とかなり大きな前立腺肥大症です。
Bph77m183733D正面画像です。
盛上がっていて、どこに膀胱出口があるのか分かりにくいですね。
まるでバラの花のようです。何重にも重なっているシワは、肉柱といって膀胱平滑筋の肥大した束です。排尿障害が強く病歴が長いと、このシワが形成されます。
Bph77m183732上図の3D画像からゲイン(感度)を下げると、表層粘膜の表情が透けて、深部の組織(筋肉・靭帯)が描出されます。
するとナルトのような渦状の膀胱出口が確認できます。
Bph77m1837333D背面画像では、前立腺組織は透けて、膀胱出口の厚くなった膀胱平滑筋が確認できます。
前立腺肥大症の大きさで医師は排尿障害を推測します。しかし実は、この膀胱平滑筋の厚さが排尿障害の原因かもしれません。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

前立腺癌の分類 グレソン分類

S07985091f002前立腺ガンの分類はいくつか存在します。
細胞の悪性度を観察して、高分化型、中等度分化型、低分化型の3タイプに分ける方法が昔からありました。
しかし、必ずしも臨床の悪性度と一致するわけではなかったので、今回紹介するグレソンGleason分類が一般的です。

前立腺ガンの疑いがある患者さんは、来院した時点ではガンの浸潤も転移も分かりません。しかし、前立腺針生検で、それが予測できれば治療に多大に貢献してくれます。それが、グレソン・スコアです。

まず採取した前立腺組織の細胞の悪性度と組織の異常さから、次の5つに分類します。
【グレソンgrade1】ガン細胞を認めるが、前立腺本来の姿に近い組織構造をしている(図の①とB)
【グレソンgrade2】上記とほとんど同じだが、腺構造(腺房)が不均一である(図の②とC)
【グレソンgrade3】腺房が変形し、腺構造のガン細胞の層が厚くなっている(図の③とD)
【グレソンgrade4】腺房の変形が進み、ふるい(篩)構造に見える(図の④とE)
【グレソンgrade5】腺房構造が消失し、全面ガン細胞だけである(図の⑤とF)

針生検で採取した前立腺組織を観察し、このグレソンgradeで分類します。しかし、組織の中は一つのGradeで均一とは限りません。そこで、一番多いGradeと2番目に多いGradeとを併記し、そのGradeを加算してグレソン・スコアとします。
例えば、組織の検査したら、どこを見てもグレソンgrade2しか観察できなければ、【2+2=4】となり、グレソン・スコア4点になります。
例えば、一番多いのがグレソンgrade2でしたが、2番目に多かったのがグレソンgrade4だとすれば、【2+4=6】となり、グレソン・スコア6点になります。グレソン・スコア4点と6点とでは、グレソン・スコア6点の患者さんの方が、臨床上悪性度が高い(予後が悪い)と予測します・
この算出法では、スコアは最低で2点から最高点10点で分類できます。このスコアと臨床経過の予後が一致傾向にあるので、臨床に多く使用されています。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

前立腺癌の潜在率?

昨年暮れ、都内の泌尿器科医のクローズの食事会があり、私の1年後輩の和田鉄郎先生(現在、慈恵医大助教授)と久しぶりに話す機会がありました。
彼の研究テーマは前立腺ラテント癌についてです。ラテント癌とは潜伏癌のこと云います。他の病気が原因で亡くなられた方を病理学的調査をおこなってみると、相当数の前立腺潜伏癌が見つかったという研究です。
現在の前立腺癌の早期発見の状況について疑問を投げかける研究結果でしたので、皆さんにご披露しましょう。
(和田先生には許可を得ています。)

【最近の日本人の前立腺潜伏癌(ラテント癌)の臨床病理学的検討】
(日本泌尿器科学会誌78卷12号1987年)

Latentpcawada私の出身大学の病院で、2年間に不幸にも病気で亡くなられ、医学研究のため献体下さったご遺体で、解剖検査を行なった男性283人の前立腺病理学的精密検査を行なった前立腺潜伏癌の結果です。
亡くなられた原因である病気に、前立腺癌は含まれていません。
この研究は、彼がコツコツと地道な努力で得られたとても価値ある結果です。
大学で臨床ばかり行なっていて勉強や研究をおろそかにしていた私としては、とても頭が下がる思いです。
さて、この研究の結果、和田先生は現在の前立腺癌増加の理由について、(一般の泌尿器科医が信じて疑わない、PSA検査などの前立腺腫瘍マーカーの信頼性と前立腺癌の発見について)疑問を感じたそうです。

Latentpcawada2この表で示すように、80歳以上の男性では、50%の人に前立腺癌(潜伏癌)が存在していることが判明したのです。
40歳以上で前立腺癌の存在率は、何と24.2%です。今回の調べた男性が極々標準の人だと仮定すると、40歳以上の男性5人に1人以上の確率で前立腺癌が存在することになります。
50歳以上では、26.5%です。4人に1人以上です。これは恐るべき数字です。私は今年で55歳になりますから、このデータは人ごとではありません。
 
S07985090f007人間ドックや健康診断の際に、前立腺癌検診を50歳以上から勧められています。
通常、PSAという前立腺癌腫瘍マーカーの血液検査です。
しかし、50歳以上の男性でPSA検査陽性率が25%というのは聞いたことがありません。
Nlpcaそうなのです。前立腺ガンを的確に判断できる究極の血液検査であるPSAといえども、ラテント癌に関しては、陽性率はおそらく20%以下でしょう。当るも八卦当らぬも八卦の50%を下回ることになります。また、PSAは排尿障害で容易に高くなりますから、前立腺肥大症でPSAが高くなった患者さんで組織検査したら、たまたまラテント癌が見つかることがあります。
主治医は「さすがPSA!」とPSAに対して絶大な信頼を置くことになり、前立腺肥大症=排尿障害=PSA上昇をすっかり忘れ、PSAの信奉者になります。ラテント癌は放置しても良い可能性の癌ですが、一度見つかってしまったら鬼の首を取った如く、泌尿器科医は積極的な余分な抗がん治療を行なうでしょう。放置しても問題ないガンであれば、予後が良いのは当たり前で、無駄な抗がん治療を受けながら主治医に感謝することになります。
逆に私のような考えでラテント癌を放置したとすれば、常識的な泌尿器科医(PSA信奉者)からは非難轟々でしょう。真実は必ずしも受け入れられないのです。無知が幸せということもあります。

| | コメント (0) | トラックバック (1)

前立腺肥大症とは? #2

以前にも前立腺肥大症についての総論を述べましたが、内容が普通すぎて面白みに欠けるので、観点を少し変えて改めてここで述べます。

【概念】
前立腺は生殖に必要な臓器です。加齢とともに生殖が必要ではなくなるので、前立腺は退化します。退化の仕方が2通りあります。それが前立腺萎縮前立腺肥大症です。
私が研修医になった28年前頃は、前立腺萎縮:前立腺肥大症が4:1であったのが、最近では前立腺萎縮:前立腺肥大症が1:4と逆転しています。ペニスの大きい男性=高齢になっても性行為は現役=前立腺肥大症という印象でしたが、今ではその法則は成り立ちません。
なぜ萎縮から肥大へと移行したのでしょう?理由は近年の食生活の欧米化、高カロリー・高タンパク・高コレステロールにあるのだと私は考えています。
Bph20040728右の写真はMRI検査で観察された前立腺肥大症です。前立腺の周囲との位置関係は写真をクリックしていただければ分かります。
さて、前立腺肥大症=前立腺が大きいということではありません。ここが誤解されるところです。前立腺肥大症とは病理学的組織検査の結果の診断名です。顕微鏡で判別する診断名ですから、前立腺肥大症のサイズが小さくても、前立腺肥大症は前立腺肥大症なのです。臨床医が前立腺肥大症による排尿障害の患者さんを目の前にして、前立腺は大きくないから前立腺肥大症ではないと、誤診する医師が多いのに驚きます。

【症状】
Ipss前立腺肥大症の多岐に渡る症状をスコア化して、誰でもが客観的に共通に評価できるようにしたのが国際前立腺症状スコア(IPSS)です。
前立腺肥大症の症状をすべて網羅している問診表ではありませんし、現在でも賛否両論ありますが、世界共通の問診表です。
A・B・D・Gが膀胱・前立腺刺激症状の質問です。
C・E・Fが排尿障害の質問です。
最後の質問が、患者さんの主観的満足度、つまりQOL(生活充実度)を質問します。
まったくの健常者はスコア0点です。
スコア6点以下であれば、症状はあるが治療の必要はないと判断します。
スコア7点から21点の間は、検査をした方がよいでしょう。
スコア22点から35点は、必ず検査・治療を受けましょう。

【検査】
Bph200407282直腸診
以前でしたら、直腸診という触診が必ず行われるべき検査でした。触診で大きければ前立腺肥大症、大きくなければ正常と診断されていました。
右のMRI写真で、肛門から医師が指を入れて直腸診で触診できるのは、赤の部分のラインだけです。
Bph200407283直腸診だけでは、医師は前立腺を赤いラインで囲まれた大きさしかイメージしません。30cc以下の大きさです。

Bph200407284しかし,このMRI写真を前立腺だけを緑で囲めば、実際には40cc以上の大きさがありますから、本当の前立腺の大きさよりも小さく認識してしまうのです。
私でも直腸診だけの診察であれば、同様に誤診してしまいます。

●超音波エコー検査
この患者さんのように前立腺の位置が膀胱側に片寄っている人の場合は、触診では前立腺は大きく触れないという欠点があります。その誤診を避けるために必ず行なわなければならない検査として超音波エコー検査があります。超音波エコー検査には経腹式超音波エコー検査(腹部エコー)と経直腸的超音波エコー検査に分けられます。
膀胱と前立腺の位置関係を判別するためには、腹部エコー検査の方が優れています。逆に経直腸的エコー検査は前立腺ガンに診断に有用です。

●尿流量測定ウロフロメトリー検査
Uroflownl_1【正常な尿流量測定ウロフロメトリー検査曲線】
(日常診療のための泌尿器科診断学㈱インターメディカから複写)
尿の勢いを具体的に目に見えるようにデータ化したのが尿流量測定ウロフロメトリー検査です。
グラフの縦軸が排尿速度(勢い)でグラフの横軸が排尿時間です。
Uroflownormal_1Uroflowbph_1
左のグラフが前立腺肥大症患者さんの勢いで、右のグラフが健常者の勢いです。一目瞭然です。

●内視鏡検査
十分に麻酔をかけて行う検査です。患者さんが痛がるようでは、泌尿器科医として失格です。
16633m70bphbns画面の中央下に見えるのが、精丘です。精嚢腺からの精液噴出孔です。精丘の周囲にはゴマのような石灰が確認できます。排尿障害の所見です。
左右から圧迫しているのが前立腺(前立腺肥大症)です。正面に見えるはずの膀胱出口が確認できません。
16633m70bphbns6同じ患者さんの超音波エコー検査の所見です。前立腺が膀胱側に突出しているのが判別できます。
膀胱出口から尿道に沿って石灰が確認できます。精丘も石灰で白く見えます。(前立腺というマークの真下)
16633m70bphbns7内視鏡手術を行なって、カテーテルを抜いた直後の超音波エコー検査所見です。
十分に切除されたのが分かります。膀胱三角部が本来の位置に戻っています。
16633m70bphbns5同じ患者さんの内視鏡手術直後の所見です。精丘から膀胱出口を確認できるようになりました。切除した量は、10gも満たないわずかな量です。

Bph4この患者さんは前立腺肥大症の中葉肥大タイプです。正面に崖のように粘膜が行く手をふさいでいるように見えます。本来なら、精丘の後には膀胱出口が確認できなければなりません。
左右から圧迫しているのが前立腺(前立腺肥大症)です。

●尿道造影
造影剤を尿道から膀胱に向かって注入するレントゲン検査です。造影剤で作った影絵で、尿道の圧迫の幅と圧迫の長さなどから前立腺肥大症の状態を想像するのです。排尿とは逆向きの流れを作るわけですから、検査中は多少の不快感や痛みを伴います。
しかし、私はこの検査をほとんど行ないません。超音波エコー検査で、前立腺肥大症の様子が手に取るように分かるからです。昔ながらの医師が未だに行っているでしょう。

【診断】
前立腺肥大症を診断するためには、問診と直腸診、超音波エコー検査、尿流量測定ウロフロメトリー検査、残尿量測定検査、尿一般検査の少なくとも5つの検査を行うだけで十分です。
これら検査で、前立腺の大きさ、排尿障害の程度、患者さんの悩みが把握でき診断できます。
検査結果をすべて平等の価値として把握し、前立腺の大きさにのみとらわれることなく診断しなければなりません。
前立腺の大きさは、前立腺肥大症の必要条件かもしれませんが、十分条件ではありません。大きさが20cc~25cc内の正常範囲であっても、排尿障害などの症状が出てくるからです。


【内科的治療】
●生薬
パラプロスト
エビプロスタット
セルニルトン

どのお薬も前立腺肥大症の軽い症状に処方します。
前立腺肥大症の排尿障害による前立腺の炎症を軽減させ、排尿を促進させます。

●漢方
八味地黄丸
牛車腎気丸

八味地黄丸はテレビ・コマーシャルでおなじみの市販薬のハルンケアです。
前立腺肥大症の症状は、漢方でいう「腎虚」という下半身の衰えの症状の一つです。ですから、坐骨神経痛・足の冷え・足のシビレ・ED・足腰の弱りなどと一緒として治療されるので、これら漢方薬になります。

●ホルモン剤
プロスタール
正式には抗男性ホルモン剤です。前立腺肥大症は男性ホルモンで成長します。ですから男性ホルモンを抑えれば、前立腺は萎縮するのです。
しかし、最近はこの治療は下火になりました。なぜなら、前立腺が萎縮しても排尿障害が治らないことと、男性ホルモンを抑えることで男らしさが失われる、男性としてのQOLが低下するからです。

●αブロッカー
前立腺肥大症の排尿障害治療薬として、αブロッカーがあります。本来、αブロッカーは、高血圧の治療だったのですが、前立腺組織の平滑筋がαブロッカーでゆるみ、排尿障害の治療薬として有効なので開発されるようになりました。
現在、前立腺肥大症用のαブロッカーは、正式にはα1ブロッカーで、前立腺に特異的に効果があり、血圧には影響のない薬です。次のようなα1ブロッカーが処方されます。
ユリーフ(α1aブロッカー)
ハルナールD(α1a>>α1dブロッカー)
フリバス・アビショット(α1a<<α1dブロッカー)
使い分けは、排尿障害症状が強い患者さんはユリーフ、排尿障害症状と膀胱刺激症状がある人はハルナールD、排尿障害よりも膀胱刺激症状が強い人か、ユリーフ・ハルナールなどのα1a優位の薬が効かない人にはフリバス・アビショットです。

【外科的治療】
●温熱治療
Onetsu一時は、一世を風靡した温熱治療(高温度治療)は、下火になってしまいました。手術をしないで効果が絶大とまでいわれたのですが、効果はそれ程でもなかったのです。効果があっても1年~2年位で効果が薄れてしまうので、治療する側の医師からすれば「な~んだ」という思いが出てきたのでしょう。
原理的には、熱で前立腺肥大症の平滑筋αレセプターを焼くというものです。αブロッカーを服用しなくてもよい状態にするということですが、αレセプターというタンパク質が再生されてしまうので、効果が持続しないという結果になったのです。
各医療器械の会社が様々な製品を作りまいた。高温度の熱源が、マイクロ波・ラジオ波・レーザー光線・超音波などですが、結果は50歩100歩でした。医師に興味が薄れたので、現在、前立腺肥大症高温度治療を行なっている病院は、数えるほどでしょう。

●内視鏡手術・レーザー手術
100ワットクラスの高出力のレーザー光線で前立腺肥大症を蒸発・凝固させる方法です。
レーザー光線の波長により、手術法が変わります。


●内視鏡手術・電気メス手術
Bph20040728org手術前の状態

Bph20040728turp_1【合成写真】
一般的に行なわれようとする、執刀医の理想的な内視鏡手術後のイメージ
このイメージは、開腹手術の前立腺摘出手術のイメージです。前立腺はすべて取り去り、前立腺被膜のみを残す方法です。前立腺の大きさが40ccであれば、摘出量は40gになります。

Bph20040728turptrue【合成写真】
実際の内視鏡手術後のイメージ
このイメージ通りであれば、排尿障害の症状は改善されますが、膀胱・前立腺の刺激症状は改善しません。また、排尿後の、尿の切れの悪さも改善しません。
前立腺の大きさが40ccであれば、前立腺切除量は25g(25cc)程度でしょう。

Bph20040728turbn_1【合成写真】
私は、右写真のようなイメージで手術を行ないます。
膀胱出口の前立腺を切除して、膀胱出口を十分に開くこと、前立腺部尿道が圧迫されない程度に前立腺を削ること、敏感で硬く肥厚している膀胱三角部を切開し、膀胱三角部を鈍感にすることです。
一般の手術よりも削る前立腺の部分が少ないのです。前立腺の大きさが40ccであれば、前立腺切除量は10g(10cc)程度でしょう。
こんなに少なくて大丈夫かな?とお思いになるでしょう。
この方法の方が、排尿障害の症状と膀胱・前立腺刺激症状の両方が改善するのです。
手術の差がどこにあるか分かりづらいので、下に拡大写真で説明しましょう。
Bph2004072810Bph200407289_1Bph200407288
一番左合成写真が、手術前の状態です。赤く塗りつぶした部分が、膀胱三角部を示しています。
中央合成写真の一般的な内視鏡手術では、膀胱出口から前立腺の中程にかけて十分に切除しているのが分かります。しかし、膀胱三角部は手付かずです。
右合成写真では、膀胱出口は十分に切除して、膀胱三角部も一部切除して薄くしています。

Bph18762m51Bph18762m512Bph18762m513Bph18762m514
実際の患者さん(50歳代)の手術前・手術後の超音波エコー検査の所見です。
膀胱側に突出しているタイプの小さな前立腺肥大症の患者さんです。
上の1列目左が手術前の前立腺正面像、右が同じく手術前の前立腺側面像です。
2列目左が手術後の前立腺正面像、右が同じく手術後の前立腺側面像です。
手術後の超音波エコー検査でご覧のように、少ししか削っていないのが分かるでしょう。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

前立腺肥大症とその周辺疾患

下部尿路症状を含む様々な下半身の病気(まとめて下部尿路症と呼びます)は、いろいろあります。
ここでテーマにしている前立腺肥大症もその一つです。
他に、慢性前立腺炎、間質性膀胱炎、過活動膀胱、慢性骨盤疼痛症候群、神経因性膀胱、心因性頻尿、神経症、前立腺肥大症などが上げられます。
私の頭の中では、下記のようなイメージで、それら病気を理解しています。

Diss_2

上図のイメージを一つ一つ解説しましょう。
排尿障害
病気、下部尿路症というファミリーのご主人は、排尿障害です。(聞き飽きたでしょう?)この排尿障害の原因は、機能性膀胱頚部硬化症、あるいは機能性膀胱出口閉塞症です。わざわざ「機能性」と冠したのは、始めの内は膀胱出口が硬くなく、完全閉塞していないからです。
患者さんご本人も自覚していない排尿障害が何年もあるいは何十年もかけて進行すると、機能性から器質性(本当に硬くなること)に変化していきます。器質性まで進むと、超音波エコー検査で膀胱出口の硬化像膀胱頚部周囲の静脈瘤が確認できます。また、前立腺結石と呼ばれる前立腺内の石灰を確認できるようになります。
排尿の機能検査である尿流量測定ウロフロメトリー検査で、尿の勢いが悪くなり、残尿も出現します。

膀胱三角部過敏
下部尿路症ファミリーの奥様は膀胱三角部過敏です。
膀胱頚部あるい膀胱出口の硬化は、膀胱三角部まで影響が及びます。膀胱三角部硬化性肥厚です。膀胱三角部は膀胱の尿充満を察知するセンサーの役割を担っていますから、これが壊れると「尿がいっぱいだ!いっぱいだ!」と常に警報を鳴らすようになります。

関連痛
この壊れた警報器は、脊髄を常に刺激します。刺激された脊髄は、この異常事態を何とかするべく、脊髄神経内のたくさんのニューロン(神経単位)を連結させ(シナプス結合)、増幅回路ともいうべき神経回路を形成します。この増幅回路に無理やり結合された下半身の知覚神経・自律神経・運動神経は、異常感覚や異常反応として、脳中枢や末梢の血管・皮膚を刺激します。これが関連痛現象です。
下部尿路症ファミリーの放蕩息子です。とらえ所がありません。

3点セット
Discpic以上の3点(排尿障害・膀胱三角部過敏・関連痛)がセットになり、男性の場合は慢性前立腺炎、女性の場合は間質性膀胱炎という症状群になるのだと私は考えています。下部尿路症ファミリーが結束するのですから、恐ろしいですね。
病態生理学的3点セットが存在しても、これらに基づく病的症状がすべて整っているとは限りません。会陰部痛などの関連痛だけの患者さんもいますし、1日30回の頻尿などの膀胱三角部刺激症状だけの患者さんもいます。【排尿障害症状がない人・ある人・強くある人】、【膀胱三角部過敏症状がない人・ある人・強くある人】、【関連痛症状がない人・ある人・強くある人】と分けると、全部で3×3×3=27通りの症状の組合せが考えられますから、慢性前立腺炎や間質性膀胱炎の患者さんには、大雑把に分けて27通りの症状を訴える筈です。掲示板を読むと、痛み派と頻尿派に分けて討論していますが、現実にはもっと多いのです。

脊髄の感受性=ネットワークの発達程度
Kanjuでは、なぜ原因があるにもかかわらず、症状のある人・ない人・強くある人の3パターンに分かれるのでしょう。
それは、脊髄内でのニューロン・ネットワークの多さに起因するのです。膀胱三角部からの情報が大量に脊髄内に入り、膀胱三角部担当の脊髄内ネットワークが発達している場合、情報量に応じた膀胱症状が出現します。
また、情報量がまかない切れないほど多い場合、あるいは膀胱三角部担当のネットワークが程ほどの場合には、体表感覚の脊髄内ネットワークに情報が伝達されますから、関連痛症状も出現します。
膀胱三角部担当のネットワークが未発達の場合、体表感覚のネットワークだけに情報が流れますから、膀胱症状はなく、関連痛症状のみになります。
膀胱三角部担当ネットワークも体表感覚ネットワークも未発達の場合には、膀胱症状も関連痛症状も出現しません。

慢性前立腺炎
原因の3点セットがそろい、それによる症状が比較的そろっているのが、男性の場合、非細菌性慢性前立腺炎と診断されるのだと考えています。
しかし、患者さんの中には膀胱三角部過敏症状が比較的強い頻尿グループと会陰部痛などの関連痛症状が比較的強い痛みグループに分けて考える人もいます。それぞれのグループの患者さんは、互いに異なる症状の慢性前立腺炎に対して、違う病気?と思っている方もおられるでしょう。
傾向的には、座ることが出来ないほどの痛みを訴えるグループが多いようです。1日50回以上の頻尿を訴える人は、ほとんどいません。
運良くわずかに前立腺が大きいと、前立腺肥大症と誤診され?排尿障害の治療が受けられるので、慢性前立腺炎症状が改善します。

間質性膀胱炎
原因の3点セットがそろい、それによる症状が比較的そろっているのが、女性の場合、間質性膀胱炎と診断されるのだと考えています。
慢性前立腺炎とは異なり、患者さんを頻尿グループと痛みグループに明確に分けられません。頻尿と痛みの両者を持ち合わせています。
傾向的には、極端な頻尿が多く、1日70回以上のご婦人を診察・治療した経験があります。30回~50回では私も驚かなくなりました。慢性前立腺炎の患者さんのように座ることが出来ないほどの痛みを訴えるご婦人にはお会いしたことがありませんが、陰部痛や恥骨部痛などの痛みが1日に何回か突然襲ってくる患者さんが多いようです。突然襲って来る恐怖が、患者さんの精神を蝕み、病気を悪化させるのです。

前立腺肥大症
排尿障害が次第に強くなり、泌尿器科医で調べてみたら前立腺肥大症と診断されます。前立腺が大きく前立腺肥大症があるから排尿障害になったと診断された訳です。一般的には、その通りなのですが、実はここに盲点があるのです。
前立腺は正常の大きさが20cc~25ccとされています。この大きさを目安にして医師は前立腺肥大症を診断するのですが、例えば大きさが25cc前後の場合、正常の大きさなので、排尿障害があっても「気のせい」あるいは「慢性前立腺炎」と診断されてしまいます。ところが30ccを超える大きさの場合は、正常よりも大きいので「前立腺肥大症」と診断され、排尿障害を晴れて正当に評価されるのです。前立腺の大きさが、高々5cc前後の違いだけで、「気のせい」か「前立腺肥大症」の大きな違いになるのです。
では、もしも前立腺の大きさが50cc以上もあって排尿障害がない場合には、その人は「気のせい」なのでしょうか?このように考えると面白いでしょう?
実は、前立腺肥大症の患者さんはもともと機能性膀胱頚部硬化症が存在しないと、大きな前立腺肥大症になっていても排尿障害にならないのです。逆に、機能性膀胱頚部硬化症があれば、どんなに小さな前立腺であっても強い排尿障害が出てくるのです。(この考え方は私のオリジナルです。)
要するに、排尿障害の要件においては、前立腺肥大症は必要条件かも知れませんが、十分条件ではないのです。

神経因性膀胱
前立腺肥大症が進んでしまった場合や排尿障害が進んだ場合には、膀胱の機能が極端に低下する神経因性膀胱という診断になります。
つらい排尿障害の症状があっても放置する人はいませんから、排尿障害症状のほとんど感じない人、つまりは排尿障害症状も含めた膀胱三角部担当の脊髄内ネットワークが未発達の患者さんが、神経因性膀胱になるのでしょう。
ダメになってしまった膀胱を様々な検査を行い、神経因性膀胱の○○タイプだと診断します。ダメになった膀胱をタイプ分けしても、医師の自己満足に終始し、実際は原因は見えてこないのです。脳梗塞や脳出血などの脳血管疾患による排尿中枢障害か、糖尿病などの末梢神経障害などが原因とされ、その時点で治療は対症療法になります。「神経だから治しようがない」とさじを投げられ、ウブレチド・ベサコリンなどの内服薬と自己導尿を指導されます。本当の原因治療には直接結び付かないので、結果として治せなくなります。
私は神経因性膀胱と過去に診断されていた患者さんを2人内視鏡手術で改善させています。

過活動膀胱
臨床的には、突然起きる尿意切迫感と切迫性尿失禁が認められる場合に、過活動膀胱と診断されます。
現在、本当の意味での過活動膀胱は、原因不明です。前立腺肥大症や慢性膀胱炎が元々あっての過活動膀胱は、続発性あるいは二次的過活動膀胱という診断になります。
3点セットの内、膀胱三角部過敏症状だけが顕著の患者さんが、過活動膀胱と診断されるのです。つまりは、膀胱三角部担当の脊髄ネットワークのみが発達している人です。

心因性頻尿
過活動膀胱という病名が確立される以前には、検査を行っても異常が出ない場合には、心因性頻尿あるいは神経性頻尿と診断されていました。膀胱三角部過敏症状だけが顕著な患者さんです。
医師の決まり文句が「気にしないようにしなさい」です。「気にしないように」出来ないから、また下(しも)の病気で恥ずかしいと思いながら受診したのにも関わらず、医師のこのようなセリフは患者さんのこころを傷つけます。

神経症
別名、陰部神経症ともいいます。陰部を中心とした違和感、痛みがあります。痛みは右だったり左だったり移動しますから、精神的?と誤解されます。感覚は脊髄内のニューロン・ネットワークでスイッチが入ったり入らなかったりですから、移動性症状が生じても不思議ではありません。移動性関連痛症状と理解すれば納得がいくでしょう。

慢性骨盤疼痛症候群
アメリカで診断される病名です。Chronic Pelvic Pain Syndrome(CPPS)というのが正式名称です。
関連痛症状だけが前面に出ている症候群だと考えてよいでしょう。医師は痛み症状に振り回され、軽微な排尿障害には気がつかないか無視するか検査しないので、結局は対症療法のみに終始します。

非淋菌性非クラミジア性慢性尿道炎
尿道の違和感が常にある、尿道から分泌物が出る、白血球が検出されるなどで、治らない慢性尿道炎として付けられる病名が非淋菌性非クラミジア性慢性尿道炎です。始めの図には記載していませんが、この病気も排尿障害が原因です。
そのような患者さんを排尿障害の一連の検査を行うと、案の定、排尿障害が証明されます。関連痛症状の尿道限局型というべき病態です。自律神経も刺激されますから、尿道分泌液が過剰に分泌され、炎症反応と錯覚して白血球も混入します。

線維筋痛症(仮説)
全身が痛くなる原因不明の病気です。自己免疫疾患・膠原病として捉えられています。
関連痛は、その病態の根拠から下半身が主体です。しかし、来院される慢性前立腺炎や間質性膀胱炎の患者さんの中には、首の痛み・肩の痛み・背中の痛み・舌の痛み・手のシビレなど上半身の症状を訴える患者さんが、結構おられます。線維筋痛症だと過去に診断されているご婦人も来院されました。
排尿障害によって起きた膀胱三角部過敏の情報が、脳中枢に向かって脊髄を上向する間に、所々でニューロンを変えて行きます。その時に、脊髄の各レベル近くの体表・筋肉の痛覚神経を刺激するので、線維筋痛症という原因不明の病気になるのだろうと考えています。
民放テレビの女性アナウンサーの自殺で有名になった病気です。線維筋痛症の患者さんで、頻尿やオシッコの出の悪さを自覚しておられたら、その可能性が高いと考えます。

| | コメント (0) | トラックバック (3)

フリバスとハルナールとユリーフ

前立腺肥大症の排尿障害治療薬であるα-ブロッカー(アルファ受容体阻害剤)は、各社様々な同系統の薬剤を製造しています。
Kisseiur一番新しく発売されたのがユリーフ(キッセイ薬品)です。
Halこの種の初めての薬として発売されたのがハルナール(アステラス製薬)です。現在ジェネリック医薬品としてたくさん発売されているのが、このハルナールのゾロ(ジェネリックの別称、後から後からマネをしてゾロゾロ出現するので)です。
Flivas同じアルファ受容体でも様々なサブタイプがあり、チョッと異なるアルファ受容体に効くのがフリバス(旭化成)です。
ユリーフとハルナールはアルファ1A阻害剤です。特にユリーフはアルファ1A選択性が高いのが売りです。
フリバスはアルファ1D阻害剤です。前立腺にはアルファ1A優位の男性とアルファ1D優位の男性に2分されます。ですからユリーフとハルナールが効かなかった患者さんが、フリバスがよく効いたということもあるのです。同じアルファ-ブロッカーでも同じではないということに注意する必要があります。

さてここで、なぜアルファ1受容体(レセプター)のサブタイプについて、細かく解説したのかというと、アルファ1D受容体の組織分布に興味がわいたからです。1Aも1Dも前立腺に同等に分布しているのですが、1D受容体は、膀胱にも多く分布していることが分かったのです。1A受容体は膀胱にわずかしか分布していません。
以前から解説しているように、前立腺肥大症の頻尿や慢性前立腺炎の会陰部痛・尿道痛は、膀胱刺激症状の別の顔と考えることができます。排尿障害で敏感になった膀胱や膀胱三角部を落着かせれば、頻尿や関連痛がおさまると考えられませんか?
実際、一番新しいユリーフは、1A受容体を特異的に阻害して、排尿障害を改善させますが、夜間頻尿などの膀胱刺激症状は回数的に減りません。
ハルナールは、1A受容体の他に1D受容体もわずかに阻害するので、膀胱刺激症状である夜間頻尿にも効果があります。ですから慢性前立腺炎の関連痛にも効果があるのです。
フリバスは夜間頻尿に優位に効果があることから、膀胱に分布の多い1D受容体に効果が期待でき、慢性前立腺炎の関連痛に期待が大です。
--------------------------------------------------------------
アルファ1受容体選択性     α1A    α1D
--------------------------------------------------------------
ユリーフ             ++++    -
ハルナール            +++    +
フリバス               -     +++
--------------------------------------------------------------
純粋に前立腺肥大症の排尿障害症状だけであれば、ユリーフが良いでしょう。ただし、逆向性射精という合併症が高頻度で出現します。薬を中止すれば元に戻る一時的な現象ですから、心配入りません。
排尿障害と夜間頻尿の両方の悩みであれば、ハルナールがよいでしょう。
排尿障害はそれ程苦でもなく、夜間頻尿などの膀胱刺激症状が主体であれば、フリバスがよいでしょう。
同じような薬でも、このように細かく使い分けることができます。

【文献的考察】
Alfa1dsubtype【1】α受容体サブタイプの無常
(資料:The Journal of Urology vol.167,1513-1521,2002)
ここに興味ある文献を入手したのでご紹介します。
ネズミを使った基礎実験タです。下部尿路閉塞(排尿障害)を手術で人工的に作ったネズミ6匹の膀胱(赤い棒グラフ)と手術はしたが排尿障害を作らない正常に近いネズミ4匹の膀胱(斜線の棒グラフ)を採取して、そのα1受容体のサブタイプの量(メッセンジャーRNA量として)を比較した実験です。
実験結果では、排尿障害を作ったネズミの膀胱では、α1Aサブタイプに関しては、正常膀胱よりも量が減り、逆にα1Dサブタイプでは正常膀胱よりも量が増えたのです。
ネズミの実験ですから、100%人間に当てはまるか分かりませんが、少なくともα1受容体サブタイプは、病気(排尿障害)に応じてかなりダイナミックな動きがあることが示唆されます。
排尿障害の初期は、α1Aブロッカーが効いても、経過が長いとα1D受容体が増加してα1Aブロッカーが効かなくなる可能性もある訳です。その場合α1Dブロッカーが効くようになるのかも知れません。
この実験の逆で、α1D受容体優位の患者さんが、治療経過中にα1A優位になる可能性もあるかも知れません。

【2】α1受容体の姿
(資料:The Journal of Urology vol.160,937-943,1998)
Alfa1abdsubtypered
排尿障害の治療薬がαブロッカーでα1受容体(レセプター)を阻害(ブロック)していると解説されても、α1受容体の姿を見たことがないので、絵空事のように思えて仕方がないのは私だけではないでしょう。
そこで、α1受容体の姿をお見せしましょう。
図の中で緑の部分が細胞膜です。細胞膜を境に上が細胞外、下が細胞内です。細胞膜を何度も貫いて蛇のようにクネクネと蛇行した構造がα1受容体のタンパク質です。タンパク質ですからアミノ酸の鎖のような構造になっています。
部分的に赤く太く示している部分が、サブタイプの部分になります。ご覧の様にサブタイプとは、α1受容体のパーツに過ぎません。パーツなのですが、生体の中では不思議なことに一定のパーツだけが機能している状況になっています。
細胞内の奥深い所にあるのが、α1Aサブタイプです。
細胞膜を何度も交差している部分が、α1Bサブタイプです。
α1受容体の真ん中に位置している部分が、α1Dサブタイプです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

前立腺肥大症と「ベルヌーイの定理」と「てこの原理」

前立腺肥大症の排尿障害を説明するのに、一般的には前立腺の大きさが云々(うんぬん)されます。
例えば、「大きいから出にくいでしょう」とか、「小さいからまだ治療しなくてもよいでしょう」という具合です。
本当に前立腺の大きさだけで排尿障害の程度を云々してよいのでしょうか?

Vernmlstこの図は、尿をためている際の下部尿路の状態です。膀胱・前立腺・尿道の順に図式されています。
黒い矢印は、上から順に、内尿道括約筋(膀胱平滑筋)、前立腺内平滑筋、外尿道括約筋(骨格筋)です。
平常時は、これら筋肉は閉まっていて尿を外に出さないようにしています。


Vernml_1さて、ひとたび排尿命令が脳中枢から伝達すると、これら筋肉はいっせいに開放されて、排尿になります。
白い矢印は各筋肉がゆるんでいる状態を示します。勢いよく青い矢印のように排尿されます。

Bernui_1前立腺肥大症の排尿障害を説明するのに必要な物理学の法則として、ベルヌーイの定理があります。この定理は流体力学に必ず出てくる重要な法則です。排尿の尿流は流体力学の素材でもありますから、この定理を知った上で、前立腺肥大症の排尿障害を考えると、とても理解しやすくなります。
空気や水などの粘性のない流体が、一定の閉ざされた空間を流れる時、どの時点においても流体の全エネルギーは常に一定であるという法則です。
正確ではありませんが、理解しやすい式として表すと、
P1+V1=P2+V2=P3+V3=・・・=Pn+Vn=K(定数)
P:流体の圧力、V:流体の速度

つまり、流れがゆるやかな時には圧力が増し、流れが速い時には圧力が低下するというのです。
電気掃除機の吸引口とゴミをためるダストボックスを考えれば、ベルヌーイの定理の応用だということが理解できます。吸引口は狭いので空気の流れが速く、そのため圧力が低下してゴミを吸い上げます。掃除機の本体の中では広いスペースに空気の流れが入りますので、流れの速度は遅くなり、圧力は増すので、ゴミを置いて行きます。
また、ソバを食べる時に、口元をすぼませてソバをすする自然な行為は、ベルヌーイの定理を無意識に利用していることになります。

【大きい前立腺肥大症の場合】
Verbphl流体が狭い場所を通過する際に、流れは速くなるのですが、その分、圧力は低下します。そのため、大きな前立腺肥大症で狭くなった尿道を尿が通過すると、圧力が低下して前立腺が吸引(赤い矢印)され尿道はさらに狭くなります。
しかし、それ以外にも排尿障害の要因は隠れています。それは、紫の?で示した黒い矢印です。

Verbphl2_1前立腺肥大症が大きいと、膀胱出口が開いた力が梃子(てこ)の力点になり、前立腺内に仮想のてこが出現して、前立腺の出口近くをふさぐように作用点が発生します。
てこの長さが長ければ、言い換えれば前立腺肥大症の長軸が長ければ長いほど、大きければ大きいほど、この作用点の力は大きくなるので、つまりは排尿障害になります。

Verbphl3_1さらに話は続きます。膀胱の圧力を借りて狭い尿道を何とか通過した尿は、前立腺の出口部分を通過する時に前立腺出口を押し広げます。その際に今度は先ほどの仮想のてこが前述とは逆に、前立腺出口が力点になり前立腺入り口(膀胱出口)が作用点になります。つまり膀胱出口を閉じるように働くのです。
この一連の動き、つまり仮想のてこを利用したシーソーのギーコンバッタンのような動きが、1回の排尿中に前立腺の上下で生じるので、排尿効率が極端に低下して排尿障害になるのです。
このシーソー運動は、膀胱や前立腺に対して振動刺激になり、頻尿・残尿感・陰部症状の原因になります。
「前立腺が大きいから排尿障害になる」というほど簡単な現象ではありません。

Verbphl4_1この仮想のてこの原理を想定すると、ハルナールやユリーフなどのαーブロッカーが排尿障害の治療薬として作用する理由が分かります。
αーブロッカーは前立腺組織内の平滑筋の緊張をやわらげる薬理作用があります。つまり前立腺を柔らかくするのです。すると、前立腺内の仮想のてこは、柔らかいてこ、あるいは関節を持った中途半端なてこになってしまうので、作用点が消失します。あとはベルヌーイの定理で生じた吸引力のみが排尿障害の原因になるので症状が軽減するのです。
ところが、前立腺肥大症が進むと、前立腺内の平滑筋の占める割合が少なくなります。ハルナールの作用する平滑筋が少なくなれば、前立腺は軟らかくなりませんから、仮想のてこは硬いままで、排尿障害は改善しなくなります。
ここまでは、大きい前立腺肥大症の排尿障害について充分に説明しました。ご理解できましたか?
次に小さい前立腺肥大症で排尿障害が生じるメカニズムを説明しましょう。

【小さい前立腺肥大症の場合】
Verbph小さい前立腺肥大症の場合、排尿障害を来たすのは、前立腺の位置が問題になります。すなわち、前立腺の入り口が膀胱の内腔に突出している形の人の場合に、前立腺肥大症が小さくても排尿障害になります。
前立腺の入り口が膀胱の内腔に突出すると、排尿の際に内尿道括約筋(膀胱出口平滑筋)が開こうとしても、膀胱出口は十分に開放できません。膀胱に突出している部分に膀胱の圧力が前立腺の入り口を閉じるように作用するので、いっそう開かなくなります。
狭い膀胱出口=前立腺入り口から尿が尿道に流れるので、尿流はジェット流状態になります。流体の運動エネルギーは増加しますから、圧力は極端に低下して前立腺に対して吸引力が働きます。そのため、ますます前立腺部尿道は狭くなり、排尿障害は悪化します。
ここでさらに排尿障害を悪化させる力(紫の疑問符が示す黒い矢印)が作用します。

Verbph2何となく想像できるでしょう?大きな前立腺肥大症のところで説明した仮想のてこがここでも登場するのです。
小さな前立腺肥大症の場合は、前立腺の出口部分は十分に開いています。すると前立腺内の仮想のてこが、その部分で力点になり、膀胱出口=前立腺入り口部分を閉じるような力の作用点が生じます。
大きな前立腺肥大症の排尿障害と違う所は、ギーコンバッタンのシーソー運動にならないということです。すなわち、常にこの形のままなのです。もしかすると、大きな前立腺肥大症よりも排尿障害が強いのかも知れません。

Verbph3αーブロッカーであるハルナールが、仮想のてこを壊してくれますから、膀胱出口の作用点の力は消滅します。ですからこのタイプの前立腺肥大症にもハルナールは効くのですが、いかんせん、前立腺の膀胱内突出はなくなりませんから、構造欠陥による排尿障害は残ります。
前立腺肥大症が小さく、ハルナールが効かないので、「治療の必要なし」「気のせい」「年のせい」と誤診されるのが、このタイプの前立腺肥大症です。
また、膀胱にとって、無理やり吹けないトランペットを吹いているようなものなので、膀胱や前立腺に物理的負荷がかかります。そのため、膀胱刺激症状・前立腺刺激症状が顕著に出現する場合には、慢性前立腺炎と誤診されてしまいます。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

頻尿の薬一覧

今日、漢方のツムラの営業の方が来訪しました。牛車腎気丸の宣伝が目的です。
その際に配布された資料が良かったので、ここに掲載します。
お薬の参考になさって下さい。
Tsumuradysuria
最近、泌尿器科医の間では尿意切迫感を主訴とするOAB(過活動膀胱)という病気が話題になっています。
原因は兎も角として(?)尿意切迫感や切迫性尿失禁で苦しんでおられる患者さんを助けようと、医師も製薬会社も必死です。
漢方の牛車腎気丸が過活動膀胱に効くメカニズムが下記の図に示してあります。
Tsumuradysuria2

| | コメント (0) | トラックバック (0)

陰嚢の痒みと前立腺肥大症 「陰嚢掻痒症」

臨床の現場では、時に原因が分からない病気に遭遇することがあります。
その例として、陰嚢掻痒症(いんのうそうようしょう)があります。別名、陰部掻痒症・陰門掻痒症です。女性の場合もあります。何しろ男女の区別なく、ハッキリした皮膚に所見もなく、外性器・肛門が痒くなる病気です。皮膚の所見は掻きこわしの所見だけです。
皮膚科は視診がとても重要です。皮膚にできた皮疹・湿疹・丘疹・発疹などを観察して、病気を診断するのです。なのに、皮膚が全く正常で、それでいて異常にかゆいのです。これでは皮膚科医も困るでしょう。原因が分からないので、取り合えず対症療法として痒み止めの軟膏や抗ヒスタミン剤を処方しますが難治性で再発を繰返すようです。
さて、ある時、皮膚科の病気に関して調べ物をしていたら、たまたま陰嚢掻痒症なる言葉を見つけ、詳細に読むと原因が前立腺肥大症・尿道狭窄となっているではありませんか!一般的な泌尿器科医にはこのような知識はありません。(私だけがないのか?・・・少し心配になりますが・・・)
皮膚科の先生は、恐らく前立腺肥大症のような排尿障害は尿の切れが悪く、陰嚢に尿が付着してかゆくなるのだろう思っているのではないでしょうか。しかしこれは誤解でしょう。なぜなら、陰嚢が尿でかぶれて痒みが生じるのであれば、赤ちゃんのオムツかぶれのように陰嚢皮膚が赤くただれていなければなりません。ところが陰嚢掻痒症の場合、ほとんど方が原因不明とされるように陰嚢皮膚は正常です。
220_1では、なぜ痒くなるのでしょう。その原因を考えるのに関連痛という生理学的生体反応を知ると容易に理解できます。
生理学では、痒み=微細な痛み感覚として考えます。ですから陰嚢のかゆみ=陰嚢の痛みとして理解できます。もう少し正確に表現すれば、陰嚢の皮膚のかゆみ=陰嚢の皮膚の微細な痛みということになります。すでに説明したように、関連痛は現在痛みのある場所・部分とは異なる、離れた他の臓器・器官の刺激が、投影されて感じる痛みのことを指しています。しかし、そこには一定の法則があります。関連痛を感じている皮膚と同じ脊髄中枢の位置でコントロールされている臓器・器官の病的刺激の投影であるということです。
陰嚢の皮膚を支配している脊髄中枢は脊髄仙骨部2番~4番です。脊髄仙骨部2番~4番中枢で支配されている臓器は、膀胱・前立腺・尿道・直腸・子宮頚部(女性のみ)です。ですから、膀胱・前立腺・尿道・直腸の病的刺激で陰嚢は関連痛が生じることになります。陰嚢のかゆみ(関連痛)を訴える患者さんに遭遇(診察)した場合、これらの臓器・器官の病気を選択肢として考えなければならないことになります。
中高年の男性で陰嚢の痒みを訴えて来院した場合には、皮膚の病気のことばかり考えずに、陰嚢掻痒症→排尿障害→前立腺肥大症を念頭に置かなければなりません。尿の出が悪かったり、多少頻尿があっても「年のせいだ」と軽く考え、陰嚢の痒みだけが辛いと思っているあなた、泌尿器科医を受診して前立腺を調べて下さい。必ず排尿障害があります。
19286m76scrbph【写真】の患者さんは76歳男性です。夜間2回の頻尿と陰部のしめり感を訴え、近くの病院から紹介されて来ました。ご覧のように陰嚢部の痒みで皮膚を掻き壊しています。排尿障害を改善させれば、この痒みもおさまります。

| | コメント (1) | トラックバック (0)

前立腺肥大症とノコギリヤシ

前立腺肥大症にノコギリヤシ(saw palmetto)は無効という文献がありました。
参考までにご覧下さい。
内容的には、今流行のノコギリヤシを飲んでも、尿流量測定ウロフロメトリー検査では変化がなかったという結果です。しかし、尿流量測定ウロフロメトリー検査の結果はあくまでも尿の勢いとしての外見上の結果であって、その結果を出すのに膀胱や前立腺への負荷がどのくらいかという内面的な結果は分からないのです。
例えると、白鳥が湖面を滑るようにスーッと泳いでいます。白鳥が水面下で足の一漕ぎでスーッとなのか、十漕ぎでスーッとなのかは外見上では判断できないのと同じです。一漕ぎでスーッとの方が効率がよく楽に滑っていることになります。
ノコギリヤシを飲まれた前立腺肥大症の患者さんも、尿流量測定ウロフロメトリー検査では変化がないかも知れませんが、楽に排尿しているのであれば、頻尿や残尿感などの症状は軽減する筈です。
この文献の短絡的な誤解と評価のように、検査結果は往々にして表面的なことしか判断できないことがあります。一つの検査がその病気の全てを完璧に評価している訳ではないことを充分に知るべきです。臨床治験を行なう場合、浅はかな医師が治験のプロトコールを作成すると往々にしてしょうもない文献が出来上がってしまいます。ところが、EBM(文献的証拠・エビデンスに基づく医療)を唱える一握りの医師たちは(本人たちは大多数と思っているらしいのですが・・・)、このような本質を見抜けず、ただひたすら文献的証拠!文献的証拠!と声高に唱えるので、医学の常識を乱し、結局は患者さんを混乱させてしまいます。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

尿閉(にょうへい)

小さな前立腺肥大症」という診断で内服治療受けていた患者さんが来院しました。「トイレ便器の前で構えていてもオシッコがなかなか出てこない」「夜トイレで6回起きる」というのが患者さんの訴えです。
近くの総合病院で3ヶ月前から、バップフォ(頻尿改善剤)、アビショット(排尿障害改善剤)、パーセリン(前立腺肥大症治療薬)を服用しているのですが全く改善しません。お腹が張って苦しいので前立腺肥大症の手術を希望したのですが、大きくないので手術する必要がないと全くとり合ってくれません。仕方が無く高橋クリニックに来院したのでした。

18756m71bns超音波エコー検査で前立腺の大きさを検査しようと、お腹を露出していただいたら、ご覧のようにお腹がパンパンです。患者さんは10分前に排尿したと言いますが、膀胱に尿が緊満した状態に違いありません。超音波エコー検査で確認すると、胃の位置まで膀胱が膨らんでいます。

18756m71bns3患者さんに十分に説明して、膀胱カテーテルを留置することにしました。そして溜まっていた尿を全部吸引しました。抜いた後はご覧のようにお腹はペチャンコです。

18756m71bns4カテーテルを挿入して1リットル吸引した直後の超音波エコー検査の所見です。膀胱尿がまだ1リットル以上残っています。

18756m71bns2採尿した尿量は何と!2350mlでした。2リットル以上の尿で膀胱が膨らんでいたのでした。こんな状態にもかかわらず、総合病院の泌尿器科医は積極的な治療をしようとはしなかったのです。患者さんに話を聞くと、昨日、パンパンになったお腹も見せ、超音波エコー検査で「尿が残っているね?」と説明しただけで何にも処置をしませんでした。

今まで診ていてくれた総合病院の泌尿器科に行き、尿閉で近所の開業医に尿を抜いてもらったエピソードを説明して、手術してもらいなさいと指示しました。泌尿器科医の世界では、一度でも尿閉になった場合は、手術適応ありと判断するのが常識だからです。
翌々日患者さんが来院しました。何と!「様子をみましょう」と言われたというのです。同じ泌尿器科医として情けない!未だに前立腺肥大症=大きな前立腺という誤解があり、排尿障害で悩んでおられる患者さんが被害者になるのです。前立腺が大きくなく排尿障害になる病気として、前立腺中葉肥大・膀胱頚部硬化症があります。大きさだけで前立腺を云々する泌尿器科医には注意しましょう。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

前立腺肥大症 症状の成り立ち

前立腺肥大症の症状は様々です。そんな時、泌尿器科の主治医の医師に、「なぜ頻尿になるのですか?」と質問しても、「前立腺肥大症だからです。」と禅問答のような答えが返ってくることがあります。

また、前立腺肥大症の内視鏡手術を行っても、頻尿などの以前から悩んでいた症状がなくならないことがあります。頻尿などの症状の成り立ちを無視して、前立腺肥大症だけに目を奪われて手術を行うので、患者さんの苦しみが取れないのです。

ここで前立腺肥大症の症状の成り立ちと、その周辺疾患に関して分かりやすいようにフローチャートを作りました。理解の助けになれば嬉しく思います。

bph-naritati

| | コメント (0) | トラックバック (0)

メール相談 前立腺肥大症編#2

「前略
初めてお便りさせて頂きます。
私は現在○○○○に長期在住の57歳の日本人男性です。 約3年程前にここで中等度(moderate)のBPHと診断されました。 それ以降 saw palmetto などの市販の薬を常用して来ましたが、BPHの症状は徐々に進行している様で外科治療を受けたいと思っています。
インターネットなどで調べた文献や比較試験の結果を見ますと、私はレーザー治療などの新療法を受けたいと思っています。今でも主流のTURP療法はリスクが高すぎる様で受けるのは躊躇します。 ここ○○○○では、TURP療法や薬物療法(Alpha-blocker等)は可能ですが、レーザーや高温度による治療は未だ行われておりません。 それで今月又は来月、一時帰国してこの様な新療法を受けたいと思っております。 先生のクリニックは、レーザー療法を提供出来るクリニックとしてインターネットで検索いたしました。  このメールは、帰国する事を決める前に、先生に治療に関して四つ程質問がありますので書かせていただきました。 
1.手術前の検査で中等度のBPHが確認され、他の基本条件が揃えば、患者の選択肢としてレーザー療法を受けられますか?
2.費用は大体はどれほどですか?(私は、現在日本の健康保険に入ってないので全額実費となります。)
3.手術後の経過が良好であれば、何日くらい日本に滞在する必要がありますか?(日本滞在中は○○○○がベースになります。)
4.手術の予約は私の意思決定後、何日くらいで出来ますか?
お忙しい中申し訳ございませんがご返事を宜しくお願いいたします。 草々  ○○○○」

【解説】
1.手術前の検査で中等度のBPHが確認され、他の基本条件が揃えば、患者の選択肢としてレーザー療法を受けられますか?
もちろんOKです。しかしレーザー手術はTUR-Pに比べてとても大雑把な手術になります。レーザー光線が光なのでどこまで組織内に浸潤しているかは把握できないからです。TUR-Pの電気メスの場合は、切除したところが明確に把握できます。レーザー手術の欠点を補うために、私はレーザー手術とTUR-Pの併用で行っています。

2.費用は大体はどれほどですか?(私は、現在日本の健康保険に入ってないので全額実費となります。)
保険が利かなければ、約20万円になります。

3.手術後の経過が良好であれば、何日くらい日本に滞在する必要がありますか?(日本滞在中は○○○○がベースになります。)
一週間です。

4.手術の予約は私の意思決定後、何日くらいで出来ますか?
手術の予約が1ヶ月先まで埋まっていますので、意思決定からというと1ヶ月先になり現実的には難しいですね。

「高橋先生
さっそくのご返事大変に感謝しております。
ご返事の内容は良く理解致しましたが、一つだけ補足質問がございます。 先生の治療では、レーザー療法とTUR-Pを併用すると言うお話でしたが、TUR-Pのみの療法では、色々の副作用が出るとの事、数種類の文献で読みました。 特に心配なのは、インポテンツ(文献によりますが13%位)無精子射精(同30%-40%位)です。 又TUR-Pは術後の合併症の確率が高いとも読みました。 先生が併用なされるTUR-Pも同様のリスクがあると考えるべきでしょうか?
ご返事を宜しくお願いいたします。 ○○○○」

【解説】
インポテンツ(文献によりますが13%位)
電気メスを使用したTUR-Pで、大きな前立腺肥大症を時間を掛けて延々と手術をすれば、勃起神経を電気メスの高周波で何べんも暴露するのでED(インポテンス)になる可能性は高いのです。例えば、40ccの容積の前立腺肥大症を全部残らず電気メスで削ろうとすると、熟練の泌尿器科医で急いでも約40分以上かかります。その間、電気メスを持続的に使い続けるのです。これで勃起神経が無事である訳がありません。
しかし、この患者さんの前立腺容積が30ccの時には排尿障害がなかったと考えれば、10ccだけ削って上げれば済むのです。それも同じ時間をかけて電気暴露を間歇的に行うような削り方をすれば、勃起神経の負担ははるかに少なくなるのです。私はレーザー光線で大雑把に前立腺肥大症を蒸発させ、後はTUR-Pで排尿しやすいように細かく成形するので、電気暴露はとても少なくて済みます。

無精子射精(同30%-40%位)
これは「逆行性射精」のことをおっしゃっているのでしょう。尿路を圧迫している前立腺組織を十分に切除すると、精液の噴出する精丘が尿道口向きから膀胱向きになってしまいます。この時には射精感はあるのですが、精液が膀胱に流れてしまい、尿道口からは出てこなくなるのです。これを「逆行性射精」と呼びます。逆行性射精が合併症として出てしまったということは、逆に言えば排尿障害が改善されたともいえるのです。TUR-Pの場合、ミリ単位のギリギリまで切除することができるので、このような合併症が生じます。逆にレーザー手術の場合は、1cm単位の手術ですからこのような合併症が起こりにくく、その分、排尿障害も改善しにくいといえます。

TUR-Pは術後の合併症の確率が高い
TUR-Pは細かい手術なので、細かいなりの合併症があり、レーザー手術は大雑把な手術なので、大雑把なりの合併症があります。レーザー手術で多い合併症が、手術後の膀胱頚部硬化症と術後の大出血です。それと時間が経過してからの前立腺被膜の穿孔(穴が開くこと)です。手術直後はどこまで熱が浸透しているか分からないからです。以上のようにレーザー手術にもTUR-Pにもそれぞれ長所・短所が存在していますから、それらを組み合わせて行う手術を私は行っているのです。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

メール相談 前立腺肥大症編#1

「始めまして、奈良の○○と申します。私の父の事なのですが、ご相談させて頂きたく思いますよろしくお願いします。
年齢は75歳です。去年の10月に前立腺肥大をTUR-Pに法で手術しました。2週間入院して、退院後4日目に多量の出血がありました。その時に、医師から手術時に尿道が狭かったのでメスを入れたからだと言われました。その後、医師から1週間に1回、3週間つづけて麻酔をし尿道にドリルを入れて尿道を広げる治療をするように言われました。しかし、父は高齢のためこの治療が辛く体力的にもたないし、また精神的にもとても苦痛だと言います。(治療後38度前後の熱が出て凄くしんどいようです。)
質問ですが、私がネットで色々調べてみたのですが、この症状はTUR-P法の副作用による尿道狭窄なのでしょうか?また、もしその場合、他に治療法はないのでしょうか?子供として、父が凄くこの治療をするのを精神的にも肉体的にも参っている様なのでなにか良い方法がないかと思いご相談しました。宜しくお願いします。
奈良県○○市○○1-○○○ ○○○○
Eーmail ○○○○@○○○,ne,jp」

【解説】
TUR-P
Trans-Urethral Resection of Prostateの略です。これは前立腺肥大症の最も標準的な内視鏡手術で、経尿道的前立腺切除手術と訳します。

多量の出血がありました
TUR-Pの手術後合併症に「術後出血」が10%の確率であります。この確率はどんなに手術のうまい熟練した名医でも同じです。ただしこのメール内容からは前立腺からの出血か尿道からの出血かは不明です。

麻酔をし尿道にドリルを入れて尿道を広げる治療
尿道拡張ブジーといいます。金属の棒を(ドリルではありません)少しずつ太くしながら尿道に挿入して尿道を拡張します。尿道狭窄を治すためのとても一般的な方法です。「ドリル」というのは医師が説明の時に分かりやすく説明した言葉のあやでしょう。

治療後38度前後の熱が出て
手術後発熱される方がおられます。免疫システムの感受性の高い方は、手術後発熱することが多くあります。

TUR-P法の副作用による尿道狭窄なのでしょうか?
恐らく尿道狭窄だと思われます。TUR-Pの手術後合併症として「術後尿道狭窄」がやはり10%の確立であります。

なにか良い方法がないか
1回だけ十分な麻酔で尿道拡張を行い、その後、太目の膀胱尿道カテーテルを1ヶ月間留置しておけば、1週間に1回の尿道拡張ブジーを行わないで済みます。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

小さな前立腺肥大症?

前立腺が大きくなければ前立腺肥大症といわないと誤解している医師の何と多いことか!専門の泌尿器科医でさえ、そのように誤解しているばか者がいるので嘆かわしい限りです。癌の診断や治療に長けていても、基本的な病気である前立腺肥大症をも十分に理解していないのであれば、癌の専門家といっても高が知れている思うのは私だけでしょうか?

さて、前立腺肥大症が大きくないと、排尿障害などの症状があっても慢性前立腺炎神経性頻尿などの汚名?(病名)をつけられてそのまま放置されてしまうケースがよくあります。ハッキリ言って誤診です。
今回、実例としてあげるのは、63歳の男性患者さんです。福島県在住の方で、平成7年に膀胱腫瘍で内視鏡手術をしてから、平成8年・9年・11年・13年と4回も膀胱腫瘍再発のために内視鏡手術を行っています。
平成7年の最初の手術を行ってから、排尿障害と頻尿を訴えていますが、慢性前立腺炎と診断されて抗生剤と漢方薬を処方されるのみで、一向に治りません。
何とかしようとインターネットで高橋クリニックを見つけ、わざわざ東京までいらっしゃいました。

様々な検査で排尿障害を確認して膀胱頚部硬化症と診断しました。ハルナールというα-ブロッカーを処方しましたら、排尿障害は改善しましたが、ご本人が手術を強く希望されたので、日を改めて手術になりました。
超音波エコー検査では前立腺の大きさは11ccで前立腺容量としては小さい方です。この所見だけからは前立腺肥大症は否定的です。
bph15939cp634.jpg

尿流量測定ウロフロメトリー検査では、ご覧のように勢いのないギザギザ山の曲線です。明らかな排尿障害曲線のグラフです。この後の残尿量測定検査では、残尿が27ml確認されました。
bph15939cp635.jpg

手術直前の内視鏡所見です。前立腺中葉肥大が特徴的に認めます。膀胱頚部硬化症でも認められるbar inn the sky 柵形成所見を認めます。6時の位置に前立腺中葉が迫り出していて尿路を狭くしています。この膀胱出口の広さは3mm×2mm程度です。前立腺そのものが全体的に大きくなくても、このように効率的に尿路を狭くするタイプの前立腺肥大症があることに医師は注意が必要です。
蛇足ながら、膀胱内には膀胱腫瘍の再発は認められませんでした。
bph15939cp63.jpg

前立腺部尿道が1.5cmにわたって不完全に閉塞された所見です。左右から迫り出しているのが前立腺の左葉と右葉です。
bph15939cp632.jpg

手術後に、上記と同じ位置から膀胱を覗いた所見です。尿路を邪魔する前立腺はなくなりました。手術後が楽しみです。
bph15939cp633.jpg

結果的に、次のように考察できます。今まで5回もの膀胱腫瘍内視鏡手術にあたって、前立腺中葉肥大型の所見が見えていた筈です。しかるに主治医は膀胱腫瘍のみに目が奪われ、前立腺肥大症を見逃していたのでしょう。患者さんは排尿障害を強く訴えていたのに慢性前立腺炎という診断で誤魔化していたと思われても仕方がありません。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

前立腺肥大症の内視鏡手術TUR-P

前立腺肥大症の手術で超有名なのが内視鏡手術、経尿道的前立腺切除術 Trans Urethral Resection of Prostate です。
尿道から手術器具を挿入し、電気メスで尿流の障害になる前立腺を削る手術です。外国生れのこの手術は、日本でも50年以上前から行われてり、前立腺肥大症の標準手術(ゴールデン・スタンダード)になっています。

麻酔
一般的に硬膜外麻酔・脊椎麻酔で行われます。

手術道具

【実例】 67歳男性です。
手術前の前立腺部尿道の所見です。13860m67bphbns26時の位置に精丘が確認できます。左右から前立腺が尿道を圧迫して、本来見える筈の膀胱が確認できません。2cmの完全閉塞です。慢性前立腺炎と異なり、炎症性ポリープはなく、粘膜は突っ張った感じです。


内視鏡を2cm先に進めると、13860m67bphbns膀胱出口が確認できます。直径3mmの狭い出口です。麻酔がかかっていてこの狭さですから、通常はもっと狭く排尿障害が強いことが示唆されます。6時の位置の粘膜がポリープ状に腫れていて容易に出血しそうです。この6時の位置の粘膜の張り具合が膀胱粘膜を引っ張り、常に尿意を作る原因になります。ですからこの部分を切除することで、膀胱出口(膀胱頚部)の緊張を解くことが出来ます。


膀胱粘膜に確認できる肉柱です。13860m67bphbns4肉柱は排尿障害が強い時に確認できる膀胱・筋・粘膜の代償性変化です。常に膀胱がム~と力んでいると肉柱が形成されます。


TUR-P直後の所見です。13860m67bphbns3術前の写真と比べると一目瞭然でしょう。精丘から膀胱が容易に観察できます。術前から比べれば排尿が楽になるでしょう。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

前立腺肥大症とは?

概念
前立腺は膀胱の直下に位置し、尿道を取り囲むようにして存在する分泌臓器です。この前立腺が加齢とともに大きくなり排尿障害を来たすのが、前立腺肥大症と呼ばれる病気です。要するに前立腺の加齢変化が排尿に影響したのがこの病気の本質です。

前立腺は前立腺液を分泌します。前立腺液は精液の3分の1を占める構成成分で、体外に射精された精子を前立腺液の緩衝成分で護り、リン酸塩で精子にエネルギーを補給しています。前立腺液の含まれていない精液は、射精後、膣内で1週間も精子を生かし続けることが出来なくなります。

前立腺肥大症では前立腺液分泌は極端に減少し、活力のない妊娠させることのない精液になってしまいます。ある意味、自然が作るパイプカットのような現象です。では、なぜこのような現象が起きるのでしょう。

私たちの食生活は戦後の国策で欧米風食生活にシフトしてしまいました。つまり高カロリー食・高タンパク食・高コレステロール食・高ビタミン食です。敗戦で徹底的に知らされた国力・体力の差は、食生活の差と受け取ってもおかしくない状況でした。ある意味正しい判断です。お陰で生産力は高まり、国民の体躯も年々右肩上がりに向上したのは周知の事実です。この食生活は、短命の国民であれば問題はありません。高い生産性で国力が上がり、短命であれば高齢者は少ないので、国民負担は軽くなります。

ところが、生活の向上とともに保険環境も向上し寿命も年々延びてきました。欧米風食生活の高カロリー食・高タンパク食・高コレステロール食・高ビタミン食は、男性ホルモンの材料です。材料が豊富であれば、高齢になっても男性ホルモンは性生活を営むに十分な値を維持することになります。高齢者がいつまでも若々しく性生活が出来るのはいいことですよね?ところが、自然の摂理はそれを許してくれないのです。

人間も含めて生き物の種の保存から考えて、多くの若いオスが多くの若いメスを妊娠させ様々なDNAを持った子孫を繁栄させるのが一番でしょう。ところが老いたオスがいつまでもセックスが可能であるとどういうことになるかお分かりですか?老いたオスは思慮深く狡猾で権力を持ち、自分の周りの若いメスを独占しようとします。すると、老いたオスのDNAだけが繁殖してまい、種の保存の観点から逸脱してしまいます。

では、どのようにすれば種の保存を護ることができるでしょうか。それは、いつまでもセックスができる老いたオスの精液の精子を亡き者にすればよいのです。それには精液中の前立腺液がなくなれば簡単です。前立腺液が出なくするのには前立腺内の分泌腺組織がなくなるように筋肉線維組織を増やしてしまえばよいのです。それが前立腺肥大症です。

まとめると下記のような構図になります。

              欧米風食生活
                 ↓
高カロリー食・高タンパク食・高コレステロール食・高ビタミン食
                 ↓
            男性ホルモンが高値
                 ↓
         前立腺内の筋肉線維組織増殖
                 ↓
             前立腺肥大症
                 ↓
           前立腺分泌腺組織の減少
                 ↓
             前立腺液の減少
                 ↓
             精子の活力低下
                 ↓
              男子不妊症


さて、前立腺肥大症の実像を映像でご覧頂きましょう。下記の写真は前立腺肥大症の67歳の男性患者さんです。夜間頻尿が4回以上で不眠症に悩まされています。
前立腺肥大症のMRI像 bph-mri.jpg
BPH:前立腺肥大症  bladder:膀胱  rectum:直腸  anal:肛門  pubic:恥骨  penis:陰茎  caudal:仙骨
膀胱内に前立腺肥大症が突き出ている状況がよく示されている。

上記のMRI像と同じ67歳の前立腺肥大症の患者さんの超音波エコー検査像です。大きさが40~50ccの中等度の前立腺肥大症です。
超音波検査横断面像  bph67y.jpg

超音波検査縦断面像  bph67y2.jpg

| | コメント (2) | トラックバック (0)