PSAは前立腺癌を反映しない?

Psaiwamurowada以前に前立腺癌の潜伏癌(ラテント癌)の潜在率について、和田先生の文献を参考に考え方をご紹介しました。
今回、「臨床泌尿器科」という医学雑誌に、和田先生の文献を引用した意見を見つけたので、ここでご報告します。
要約すると、PSA高値のために前立腺針生検まで検査が進んだ患者さんの前立腺癌発見率は、潜伏癌・ラテント癌の潜在率とほぼ同じで、PSA検査の存在価値があるのか?というものです。

【補足】
和田先生が、このたび(平成20年7月8日)大田区中央で開業されました。和田医院です。前立腺癌で相談のある方は、お薦めします。

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奇異性尿失禁 Paradoxical incontinence

奇異性尿失禁(きいせい・にょうしっきん)という言葉をご存知ですか?別名、溢流性尿失禁(いつりゅうせい・にょうしっきん)ともいいます。
教科書的には次のような記載になっています。

「溢流性尿失禁 overflow incontinence
尿閉になり、最大膀胱容量と残尿量が同量となり、有効膀胱容量がゼロになって、常時尿が尿道より漏れる状態である。
膀胱内に尿を保持できるが、排尿できずに尿が漏れ出る状態であり、尿を保持できない尿失禁とは異なり、奇異性尿失禁 paradoxical incontinenceともいわれる。
骨盤内末梢神経損傷による神経因性膀胱、高度な前立腺肥大症により慢性尿閉となった場合などが原因である。」

1回読んで理解できたなら、貴方は泌尿器科専門医です。2回読んで理解できたなら、貴方は一般の医師クラスの頭脳です。何回読んでも理解できなければ、貴方は常識人で、本当の意味での理路整然とした科学的な論理的な頭脳をお持ちの方です。

教科書でも専門書でも、この「奇異性尿失禁」については、これ以上の詳細な解説はありません。「オシッコが出ないのにオシッコが漏れてしまう」現象をこの程度の解説で理解しろという方がどだい無理な話です。
神経因性膀胱や前立腺肥大症などに高度な排尿障害があるのは理解できます。排尿障害で出口が開かないのに、同じ出口からオシッコが通過して漏れる出るのです。まるでワープ航法です。「どこでもドア~」があるようです。そこには何か手品のような仕掛けがきっとあるのです。その仕掛けが分からないままに、現実にそのような現象が起きるからと、医師がまる覚えしてしまったところに、臨床医学のいい加減さ・非科学性があるのです。

なぜ突然、このような話をしたのかというと、今まで疑問であった「奇異性尿失禁」が、今日初めて、氷解したのです。ある患者さんの来院を機会に・・・。

この患者さんは66歳男性です。
3年も前から地元の市立病院で、「前立腺肥大症+慢性前立腺炎」の診断で治療を受けています。
症状は、1日10回の頻尿と寝てから3回の夜間頻尿です。
さらに尿失禁があります。トイレが間に合わなくて漏らしてしまう切迫性尿失禁と、無意識に漏れてしまう問題の奇異性尿失禁があります。
主治医は、前立腺肥大症+慢性前立腺炎の診断で、アビショット、ポラキス、八味地黄丸、ベシケアなどの薬を次々に換えて処方しますが、症状の改善をみません。知人が私のクリニックで治療して経過が良かったので、紹介されて本日(5月27日)来院されました。
Nb22123m66診察台に寝ていただいて腹部を観察すると、右腹直筋部が盛上がっています。やせた男性ですから目立つのです。オシッコを特に我慢している訳でもありません。腹壁ヘルニア?と思ったほどです。

Nb22123m665超音波エコー検査を行なったのが、右の画像です。
黒い部分が尿です。白いラインが膀胱壁です。膀胱壁にキノコのような形態の物ががいくつも確認できます。何だと思われますか?

Nb22123m666正体は「肉柱」です。
強い排尿障害の際に確認される膀胱平滑筋の肥大所見です。この患者さんの3D画像では、ご覧のように縦横に走る肉柱の走行が明確に確認できます。肉柱を確認した時には、強い排尿障害があると判断しなければなりません。

Nb22123m663尿流量測定ウロフロメトリー検査を行なったのですが、16mlしか排尿できません。
患者さんは自覚していない慢性的な尿閉状態です。カテーテルを挿入して採尿したところ全部で670ml!です。

Nb22123m662結果、お腹はペッタンコです。腹壁ヘルニアではなかったのです。
この患者さんは、前立腺肥大症あるいは神経因性膀胱の慢性尿閉と診断されるのが、普通であれば妥当な診断でしょう。
ここまでは、プロローグです。
Nb22123m664さて、奇異性尿失禁について話を戻しましょう。先ほどの肉柱を確認した2D画像を前立腺部に視点を移動したのが右の画像です。
左側が膀胱・前立腺を側面から見た状態、右側が膀胱・前立腺を正面から見た状態の画像です。
膀胱と接している部分が「くさび形(側面像ではバナナ型・正面像ではV字)」に開いています。ちょうど前立腺部尿道です。排尿障害による尿閉状態であるのに膀胱出口が開いているのです。つまり膀胱括約筋が働いていない状態ですから、尿を保持しているのは外尿道括約筋だけになります。
尿の保持は膀胱括約筋(内尿道括約筋)と外尿道括約筋の2つの筋肉が一丸となって頑張っていますから、1つの筋肉だけでは力は50%~20%に激減するので、尿失禁があっても不思議ではありません。
Nb22123m669右の図を使って説明しましょう。左と中央の図は正常な状態を示します。
一番左の図は尿がそれ程たまっていない場合の下部尿路の状態です。膀胱括約筋と尿道括約筋が協力して尿を保持しています。中央の図は尿がかなりたまった場合の下部尿路の状態です。尿道活躍筋はそのままですが、膀胱括約筋は自律神経反射でさらに収縮して閉鎖力を強くします。また膀胱内圧の上昇が膀胱括約筋を圧迫して閉鎖力を補助してくれます。
ところが、基礎疾患として前立腺肥大症などがあると(右の図)、膀胱括約筋は膀胱出口の周辺に追いやられ完全に伸び切っています。そして膀胱壁と一体化していて、尿の貯留によって引き伸ばされた膀胱壁によって膀胱括約筋も開く方向に牽引されます。
前立腺が正常であれば、この程度で前立腺部尿道は開きませんが、前立腺肥大症で硬くなっていると、まるで無機質構造物のように他動的に前立腺部尿道は開いてしまいます(2D画像を参照)。
前立腺が大きい場合や膀胱容量が多い場合には、膀胱と前立腺が一体になって本来の解剖学的位置よりも下方に下がります。すると尿道括約筋の働く最適なポジションではなくなるので閉まりが悪くなります。
結果、膀胱括約筋と尿道括約筋が働くことができなくなるので尿失禁になります。
Nb22123m6610カテーテルを挿入し尿を400ml抜いた後の2D画像です。
270ml膀胱に尿がたまっている状態です。先ほどの2D画像と比較して、前立腺部尿道が閉じているのが確認できます。この患者さんは300ml以下では膀胱出口は開かないことが分かりました。
前立腺の大きさは21ccで正常の大きさ(20cc~25cc)で、一般的な前立腺肥大症の大きさではありません。
Nb22123m667この状態で3D画像を見てみると左の所見になります。膀胱出口がいびつな形です。
正常な場合には膀胱出口は正円ですから形態異常になります。
Nb22123m668同じく3D画像を反対方向から観察したのが左の所見です。
膀胱出口が「ひょうたん」のように変形し、その周囲の輪郭が硬く見えます。いわゆる「膀胱頚部硬化症」です。

さて、これから本題です。
この患者さんは前立腺部尿道が開いているにもかかわらず、16mlしか排尿できませんでした。立位で排尿する場合は、前立腺部尿道はもっと開大していますから、さらに排尿しやすい筈です。「漏れるのに、出そうと思うと出ない」つまりは「奇異性尿失禁」の状態です。
Nb22123m6611_3左の図を使って説明しましょう。
左側の図は、膀胱いっぱいに尿がたまった状態で尿が漏れる仕組みを示した図です。
右側の図は、自分の力で排尿しようとしても排尿できない仕組みを示した図です。
排尿しようとすると、尿道括約筋の作用によって前立腺の先端部を下方に下げながら開こうとする力がかかります。その力は膀胱括約筋も引張り前立腺全体が下方に下がります。前立腺はもともと解剖学的に小骨盤腔の非常に狭い空間に存在します。前立腺は下降するとさらに狭い空間に押しやられ、前立腺全体に外側から強力な圧力がかかり、膀胱出口は閉じてしまうのです。この状態になると前立腺の大きさはほとんど無関係です。前立腺の位置がポイントになるからです。この患者さんの前立腺の大きさは21ccと小さい方でした。

ここまで解説して初めて「奇異性尿失禁」が理解できたことになります。
「溢流性尿失禁 overflow incontinence
尿閉になり、最大膀胱容量と残尿量が同量となり、・・・奇異性尿失禁 paradoxical incontinenceともいわれる。骨盤内末梢神経損傷による神経因性膀胱、高度な・・・原因である。」
という先の解説が、言語明瞭意味不明の解説であったかをあらためて知ることになるのです。

さて、今回の患者さんは、これからどのようにして治療すればよいのでしょう。
まずは尿路確保のために、カテーテルを留置しました。カテーテル排出口にキャップを装着して、定期的に(2時間~3時間毎に)排尿してもらうようにしました。常に700ml近い残尿があったので、膀胱そのものが疲弊しています。尿路を確保することにより膀胱の機能をいったん回復させるのです。
残尿が非常に多い状態でアビショット(α-ブロッカー)を服用しても効きません。カテーテル留置で慢性的な残尿をなくすことで、α-ブロッカーが効くようになります。3週間後にはカテーテルを抜き自尿できるかどうかを判断します。
それでも改善しないのであれば、膀胱頚部の硬化部を切除・切開します。


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前立腺肥大症の症状 朝一番のオシッコが直ぐに出ない

Bnopen3_2膀胱三角部の重要性に関しては、慢性前立腺炎のページで「膀胱三角部の重要性#1」とページをあらため「膀胱三角部の重要性#2」に詳細に解説しました。前立腺肥大症の手術をされても改善しない方は、上記のリンク先を参考にご覧下さい。改善しない理由を解説しています。
ここでは、前立腺肥大症の患者さんの訴えで、「朝一番のオシッコが直ぐに出ない」という症状について、膀胱三角部と関連して解説します。
右図は、前立腺肥大症の患者さんの下部尿路の余り溜まっていない状態での排尿を示すイラストです。
前立腺肥大症(緑に着色している部分)のために、膀胱三角部(赤く着色している部分)は伸縮性に欠けます。

朝、尿がいっぱいに溜まったオシッコ直前の状態は・・・
Bnopen5右図のイラストの如くです。
膀胱に尿がたまると、膀胱の前には恥骨が存在しますから、膀胱は赤い矢印の後ろ側(直腸側)に膨らみます。膀胱が膨らむと、輪状筋脚と輪状筋がやはり赤い矢印の後ろ側に引張られます。
膀胱出口の前に位置している輪状筋が後ろ側に引張られ、膀胱出口は塞がれる格好になるので、膀胱に尿が溜まり過ぎる朝一番のオシッコの時には直ぐに出ないのです。

現在、前立腺肥大症でこの症状がある患者さん、主治医の先生に朝一番のオシッコがどうして出にくいのか質問して御覧なさい。明快に答えることができる医師はいない筈です。

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前立腺肥大症の2つのタイプ

超音波エコー検査の2D画像と3D画像を比較していくうちに、「?」と気がつくことがありました。
大きな前立腺肥大症が、2D画像では同じように見えても、3D画像では2つのタイプが存在するように見えるのです。
超音波エコー検査機器の特性(機器内のソフト特性)でそのように見えるのかも知れません。たまたま、同じものが、何かの条件で違った所見として捉えられるのかも知れません。超音波エコー診断装置で3D・4Dの複雑なソフトというフィルターを通過してきた情報ですが、思わぬ発見をしたのです。
機器による幻覚かもしれませんが、機器にだまされたと思って信じ、仮説を立て考察してみました。
Bphbns21378m743【タイプ1】
74歳の男性患者さんです。地元の社会保険病院の泌尿器科で、10年前から前立腺肥大症で治療を受けています。ハルナールを服用していますが、日中9回、夜間4回の頻尿があります。
前立腺ガン腫瘍マーカーであるPSAが25と高値になったので、過去に3回も前立腺針生検を行なっていますが、いずれも異常なしの結果です。
セカンド・オピニオンで来院されました。
超音波エコー検査2D画像では、膀胱に突出した前立腺肥大症を認めます。大きさは約70ccで正常(20cc前後)の3倍以上の体積です。明らかに大きな前立腺肥大症です。
側面像でくびれている部分が膀胱出口で白く見えるのが前立腺結石です。

Bphbns21378m74超音波エコー検査3D画像の膀胱側から観察した所見です。膀胱出口の小さな穴が確認でき、その周囲を盛上がった前立腺が確認できます。

Bphbns21378m742超音波エコー検査3D画像で、上の画像の裏側から観察した所見です。
不思議に見えませんか?洞窟のように伽藍堂です。所どころに観察できる塊は前立腺結石です。洞窟の奥が行止まりになっていて、わずかながらスリットが入っています。それが膀胱出口でしょう。
2D画像で確認できる前立腺は、3D画像では透明になり、そのスペースが空虚な洞窟として描出されます。
3D正面像で盛上がっていたのは、前立腺肥大症そのものではなく、膀胱粘膜?なのです。

Bph21272m744_2【タイプ2】
74歳の前立腺肥大症の男性患者さんの2D画像です。
2D画像からは、【タイプ1】の患者さんと同様に、前立腺肥大症が膀胱内に突出している所見が確認できます。
前立腺の大きさは約77ccと巨大です。

Bph21272m743D画像の正面像です。
【タイプ1】の正面像と比較して「?」ではありませんか?
正面から観察しているのに、膀胱粘膜で覆われた所見ではなく、洞窟、洞穴のように空虚なスペースが直接観察できます。
この画像からは次のことが分かります。
この大きな空洞が前立腺そのものとすれば、膀胱三角部まで巻き込んでいます。すると左右の尿管口は圧迫されますから、腎臓から膀胱への尿の流れが悪くなる筈です。
患者さんは、案の定、他の医療機関で水腎症を指摘されています。排尿障害があるから水腎症になったと診断されて、1日4回の自己導尿を強いられています。しかしよくよく考えてみると、自己導尿を行い残尿を減少させても、前立腺肥大症による尿管口の物理的圧迫ですから、水腎症は治らないことになります。

以前に前立腺肥大症について説明に使用したMRIの患者さんの前立腺肥大症は、このタイプでしょう。当時は3D4D超音波エコー機器がなかったので、この検査で確認することはできませんでした。

【考察】
Bphbns21378m744Bphbns21378m74
【タイプ1】の患者さんの3D画像をここで改めて詳細に観察すると、前立腺の突出した周囲が凹んで見えます。緑に着色した部分です。ここは凹んでいるのではなく、実は前立腺で3D上は透明に見えている部分なのです。

Bphbns21378m745_2Bphbns21378m742
上の写真の裏側から観察すると、前立腺の部分が正面の行止まりの周囲を回り込むように見えます。上の写真の凹んで見える部分に当たります。
Bphbns21378m746これら一連の写真から、前立腺と膀胱との勢力争いが見えます。
前立腺肥大症で前立腺が次第に大きくなると、前立腺は膀胱に向かって成長します。膀胱は前立腺の浸入を抑えようと膀胱出口周囲の膀胱平滑筋が発達してきます(赤い矢印)。そして前立腺の中心線に向かって覆いかぶさるように伸展発達します(黄色い矢印)。

Wnlmorifice・・・と単純に画像を理解していましたが・・・よくよく考えてみると、前立腺は元来膀胱の直下に位置していますから、膀胱平滑筋が前立腺に覆いかぶさっているのは当たり前です。膀胱平滑筋が伸展発達したとして考えるのには違和感を覚えます。
右の画像は、排尿障害のない男性の正常像(実は55歳の私のものです)です。前立腺は腫れていないので、膀胱下からの前立腺の隆起がほとんどありません。膀胱出口もこじんまりと小さく観察できます。膀胱出口は膀胱尿道移行部ですから、3D画像では、この程度の穴として観察できます。(実際は閉じていますが、尿道の厚さ分だけ透明に穴として観察できるのです。)

心理学のテストと同じで、見方を変える必要はあります。すると異なる本当の姿が見えてきます。
Bphbns21378m747前立腺が見える部分(赤い実線)は、膀胱平滑筋が裂けて前立腺が顔を露出して透けて見えるのだと考えると納得がいきます。そのように考えると、この画像からは膀胱出口周囲の膀胱平滑筋は3分の2は裂けたのだといえます。赤い点線の部分は、これから裂けつつあるくぼみなのかも知れません。
緑の矢印の部分は、膀胱平滑筋の縦走筋でしょう。縦走筋は膀胱出口を開くためにあるのですが、膀胱出口周囲の3分の2は切られてしまったと考えると、この患者さんの縦走筋による膀胱出口の開かせる能力は、一般の男性の3分の1以下(33%以下)ということになります。

また、膀胱平滑筋が裂け、前立腺が露出している周囲の盛上がりが気になります。これは膀胱平滑筋が裂けてその断端が団子状に固まった姿かも知れません。膀胱平滑筋が裂けていない周囲の膀胱平滑筋が平坦であることからも想像に間違いはないでしょう。そのような膀胱平滑筋の盛上がりは、機能的には何の役目も果たさないです。

さて、これでは膀胱の本来の力だけでは排尿は十分にできません。そのため腹圧をかけて力んで何とか排尿することになるのです。膀胱出口周囲にわずかばかり残されている膀胱平滑筋は孤軍奮闘頑張っているので、一見してマッチョです。最後のあがきにも見えます。

このように前立腺の膀胱内成長を抑えるように膀胱平滑筋が発達したのが【タイプ1】で、前立腺の膀胱内成長を容易に許してしまったのが、膀胱平滑筋の発達が前立腺周囲にとどまる【タイプ2】なのです。


Bphtypeイラストの青い大きな円が膀胱、緑のだ円が前立腺肥大症です。赤い部分が発達した膀胱平滑筋です。

Bphtypearrow_2タイプ1では前立腺の上に膀胱平滑筋が覆って、前立腺の浸入する力(緑の矢印)と膀胱平滑筋の抑え込む力(赤の矢印)が均衡状態です。
タイプ2では膀胱平滑筋が前立腺に道をゆずるように前立腺が膀胱に浸入(緑の矢印)しています。

イラストから患者さんの症状を予想すると次のようになります。
タイプ1は、発達した膀胱平滑筋が前立腺を覆っていますから、排尿時に容易に開いてくれるとは思えません。そのため「出が悪かったり」、「すぐに出なかったり」の症状があるでしょう。
タイプ2は、膀胱出口に前立腺が顔を出しているので、排尿はそれ程苦もなくできるでしょう。しかし膀胱出口周囲に発達した膀胱平滑筋とのバランスで、排尿中に膀胱出口の振動のため、膀胱三角部が刺激されて頻尿・残尿感・夜間頻尿の症状があるでしょう。

Bph3typearrow上のイラストをジッと見ていたら、右のイラストのようにも考えられることが分かりました。
つまり、タイプ1とタイプ2はそれぞれ独立した形態ではなく、タイプ1からタイプ2へ移行した、あるいは悪化したとも考えられるのです。その移行期をタイプ1.5として表現しました。
今回、タイプ1で紹介した実例は、亀裂が入っていることにより、タイプ1.5と表現した方が的確かも知れません。


★観点の違いにより、次のように名称を考えました。
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観点の違い   3D画像   解剖学的観点   膀胱平滑筋から
------------------------------------------------------------------------
タイプ 1:   キャップ帽型   正常解剖型    浸入阻止型
------------------------------------------------------------------------
タイプ 2:    ドーナツ型    貫通型       開放型
------------------------------------------------------------------------

★予想可能な臨床的違いは、次のようでしょう。
------------------------------------------------------------------------
臨床的違い α-ブロッカー  PSA値  
------------------------------------------------------------------------
タイプ 1:  α1dが効く    高い   前立腺ガンと誤診
                         結果、何回も針生検
------------------------------------------------------------------------
タイプ 2:  α1aが効く    正常   
------------------------------------------------------------------------

★予想可能な臨床症状の違いは、次のようでしょう。
------------------------------------------------------------------------
臨床症状の違い  臨床症状  前立腺大きさ
------------------------------------------------------------------------
タイプ 1:   ポタポタ・出難い  小さい 慢性前立腺炎と誤診
------------------------------------------------------------------------
タイプ 2:   頻尿・残尿感    大きい
         会陰部痛     小さい場合は慢性前立腺炎と誤診
------------------------------------------------------------------------


ではタイプ1とタイプ2とでは、どちらが重症なのか?は、現時点では不明です。これから、このような観点で観察すればハッキリするでしょう。

Bph77m183732【実例】
77歳前立腺肥大症の男性です。前立腺の大きさは61ccです。
【タイプ1】です。
Bph3d12027m6833cc【実例】
68歳前立腺肥大症の男性です。前立腺の大きさは33ccです。
【タイプ1】です。
Bph18108m633d【実例】
63歳前立腺肥大症の男性です。前立腺の大きさは33ccです。
【タイプ2】です。
Bph3d11624m5037ccpsa49【実例】
50歳前立腺肥大症の男性です。
前立腺の大きさは37ccです。
【タイプ2】です。

Bph21394m7159cc【実例】
71歳男性です。夜間5回の頻尿です。日中は10回です。
前立腺の大きさは59ccです。
【タイプ1】です。

Bph21394m7159cc2上記の画面から深部にピントを合致させた所見です。
膀胱平滑筋が尿道に沿って二枚貝のように前立腺内に浸入しているのが判別できます。

いかがですか?前立腺肥大症のタイプが容易に判別できるでしょう。大学病院の泌尿器科医でさえ知りえない事実をあなたは理解し会得したのです。
外観だけでは支離滅裂・一貫性がないように思える現象も、ひとたび理由が分かれば、その姿形に規則が見えるのです。
その昔、お釈迦様が「ハッ?!」と悟りを開いた一瞬は、このような想いだったのかも知れません。

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PSA検診の動向

PSAとは、前立腺ガンの腫瘍マーカーです。
腫瘍マーカーとは、特定のガンに呼応して数値が変動する生体検査を意味します。
血液中PSAは、正常値が4.0以下ですが、前立腺ガンの存在で4.0以上の値になり、10.0以上で前立腺ガンはほぼ90%以上の確率で存在します。
住民健診で、前立腺ガン検診(PSA採血)を行なう自治体が増えつつあるのですが、それを否定するような研究結果が下記の記事のように出たのです。
前立腺ガンが存在しても死なないという潜伏ガンについて、以前に説明しました。
その事実と照らし合わせて考えてみると・・・どちらの意見が正しいのか?・・・面白いでしょう。

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前立腺がん厚労省研究班、分裂…5人脱退へ 泌尿器科医、検診否定に反発

記事:毎日新聞社

【2007年10月16日】
前立腺がん:厚労省研究班、分裂…5人脱退へ 泌尿器科医、検診否定に反発

 前立腺がん検診の有効性を検討する厚生労働省研究班(主任研究者、浜島ちさと・国立がんセンター室長)が、「PSA(前立腺特異抗原)検査による集団検診は勧められない」との報告書案をまとめたことに関し、メンバーや研究協力者の泌尿器科医5人が研究から脱退する意向を示していることが分かった。「内容に責任を持てない」ことが理由。PSA検査による集団検診は市町村の7割が実施しており、研究班の分裂は自治体に混乱を招きそうだ。

 研究班は主任研究者と分担研究者9人(うち泌尿器科医1人)で構成。研究協力者11人(同4人)も研究に参加する。脱退を表明した5人はいずれもPSA検診推奨の立場を取る日本泌尿器科学会の会員。連名で研究班に文書を送り、脱退のほか、今月末完成予定の報告書に名前を掲載しないことも求めている。

 分担担当者で脱退を表明した伊藤一人・群馬大准教授は「議論は最初から結論ありきで泌尿器科医の意見は受け入れられなかった」と話す。一方、浜島室長は「議論を重ね、経緯も報告書に盛り込まれている」と説明する。

 PSAは、前立腺の組織が壊れると血液中に漏れ出るたんぱく質。報告書案は、国内外の研究論文を評価した結果から、「PSA検査を使った集団検診に、死亡率減少効果があるかどうかを判断する根拠が不十分だ」とした。一方、泌尿器科学会はPSA検診を推奨する見解を表明し、学会独自の前立腺がん検診の指針を刊行する準備を進めている。

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1日4回の自己導尿

福島県在住の74歳の男性患者さんです。
人間ドックで両側の水腎症(すいじんしょう:尿の流れに障害があり腎臓がパンパンになること)を指摘され、地元の有名な病院の泌尿器科で精密検査したところ、「神経因性膀胱」と診断されました。
要するに膀胱に力がないための排尿障害と診断されたのです。治る病気ではないと告げられ、今年の4月から毎日4回~5回の自己導尿(じこどうにょう:自分で尿道から膀胱へカテーテルを挿入して排尿すること)を指導されて行なっているそうです。
患者さんは何とかならないものかと高橋クリニックを受診しました。

Bph21272m7442D超音波エコー検査では大きな前立腺肥大症を認めます。
その大きさ、何と77cc!、正常の大きさが25cc以下ですから普通の男性の3倍以上の容積です。
誰が何と言おうと押しも押されぬ立派な前立腺肥大症です。

Bph21272m743D正面画像です。
ゲイン(感度)を調節して前立腺組織は透けていますから、大きな洞窟が見えます。

Bph21272m742メジャーで洞窟の中ごろを間口と高さで測ると、4.37cm×2.65cmです。手前の方がもっと広いですから、膀胱内に突出した前立腺肥大症ということが分かります。
Bph21272m74enhance上図を線画風に強調したのがこの写真です。
★印が膀胱平滑筋の肥厚した部分です。
前立腺内にまで膀胱平滑筋が浸入しているようにも見えます。

Bph21272m7433D背面画像では、最大径で同様に4.78cm×4.36cmというかなりの広さです。
さらに詳細に観察すると、2時と10時~8時の位置にシコリが確認できます。恐らく膀胱平滑筋の肥厚でしょう。
Bph21272m743enhance上図を線画風に強調した写真です。
★印が膀胱平滑筋の肥厚したと思われる部分です。
膀胱側から尿道側まで肥厚した膀胱平滑筋が浸入しているように見えます。前立腺内の平滑筋が肥厚したという話は聞いたことがありませんし、前立腺肥大症そのものが3D画像では透明になるので、このようには描出されません。
前立腺肥大症というと、前立腺の大きさしか議論されませんでしたが、3D画像の登場により、画像による前立腺肥大症の分析が詳細にできます。
これにより、きめ細かい治療法が確立するかも知れません。
例えば、肥厚した膀胱平滑筋にボトックス注射をするのです。むやみやたらに注射するに比べたら、効果も絶大でしょうし、副作用も出ないでしょう。

排尿障害は神経因性膀胱が原因ではなく、容積77cc(重量77g)という前立腺肥大症からくるものでしょう。
たとえ、神経因性膀胱があったとしても、結論を出すのは前立腺肥大症の治療を行なってからの判断です。
この主治医は初めから神経因性膀胱という誤診で治療した可能性があります。1日4回の自己導尿を患者さんに科すという重大な過ちを犯したことになります。

取りあえずα-ブロッカー(ユリーフ)を1ヶ月処方して様子を見ることにしました。

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前立腺肥大症の3D画像

最近の私のマイブームは、3D・4D超音波エコー検査を利用して、膀胱出口の表情を観察することです。
思いついたきっかけは「慢性前立腺炎」に購入するまでの経緯に関しては「開業医こぼれ話」に掲載していますから、詳細はそちらをお読み下さい。
さてさて、膀胱出口の表情を見ることに何の意味があるのかお分かりにならないと思いますから、下に実例を上げましょう。

Bph18108m632d_2【実例】
この写真は、63歳前立腺肥大症の患者さんの超音波エコー検査の普通の側面像です。
一般的に超音波エコー検査は2D画像で2次元写真になります。見慣れている医師であれば、前立腺の大きさだけではなく膀胱出口付近の硬さを想像できますが、素人には分からない写真でしかありません。

Bph18108m633d_2右の写真は、同じ患者さんの超音波エコー検査3D画像(立体画像)です。
真ん中の洞穴のように見える中心が、膀胱内から見た膀胱出口です。
膀胱出口は単純な穴ではなく複雑です。周囲も堤防状のようになり、まるでドーナツかカルデラ火山のようです。

Mtaso【宇宙から見たカルデラ火山の代表:阿蘇山】
上記の超音波エコー検査写真よりも立体的で、膀胱出口周囲の表情が分かりやすくなっています。
しかし、初めてこの写真を見せられて、尿が出にくいと即理解はできないでしょう。そこで下の写真を見てください。

Nml3d8000【実例】
この写真は、50歳代の排尿障害のない男性の膀胱出口周囲の3D画像です。
正常な画像と考えてよいでしょう。上の前立腺肥大症の3D画像と比較して、中心に見える膀胱出口が小さくありませんか?本来、膀胱出口は排尿中以外は閉じているべきものですから、小さくて当たり前です。
しかし、前立腺肥大症の患者さんの写真で、膀胱出口が大きく観察できます。それは膀胱出口が大きくなっている訳ではなく、膀胱出口周囲が前立腺肥大症のために隆起して、相対的に膀胱出口が落ち込んでしまい、一見膀胱出口が大きく見えるだけなのです。

Bph3d11624m5037ccpsa49【実例】
50歳男性で健康診断で前立腺癌腫瘍マーカーPSAが4.9(正常値4以下)と指摘されて来院した患者さんの3D画像です。
前立腺肥大症特有のドーナッツ状あるいはカルデラ火山状の膀胱出口の所見です。
排尿障害が存在するために、PSAが上昇するのです。前立腺癌のためではありません。
ちなみに前立腺の大きさは37cc(正常25cc以下)ですから、前立腺が大きいことも理由になります。
上の正常の形態と比べても、一目瞭然でしょう。明らかに硬いという印象です。
Bph2d11624m5037ccpsa49この2D画像は、上の3D画像の側面像です。この普通の2D画像から、3D画像の立体的な画像を想像できますか?私は想像できません。
通常、超音波エコー検査の場合、その特徴を一番強く表現している画像を忙しい診察・検査中に記録として残します。すると残した画像に患者さんの病気の状態を印象付けられてしまいます。これが誤診の原因になるのです。

PSAが上昇する原因として、前立腺癌の他に、前立腺肥大症や慢性前立腺炎が上げられます。
前立腺肥大症が原因の場合は、前立腺の大きさがPSA上昇と検討されますが、私は大きさよりも3D画像のようにオシッコが出にくい形をもっと議論した方が的を得ているのでは?と思っています。

Bph2d12027m6833cc【実例】
68歳男性の2D画像の前立腺の所見です。
夜間頻尿が6回、日中15回以上の頻尿です。前立腺が膀胱内に突出しているのが分かります。
前立腺の大きさは33ccと中くらいの大きさです。前立腺の大きさからいえば、気のせいですと言われてしまいかねない大きさです。
上の写真の2D画像と側面像は似ていますから、カルデラ火山を想像できますね。

Bph3d12027m6833cc上の写真の3D画像では、予想に反してカルデラ火山ではなく、富士山を上空から眺めたイメージでしょう?膀胱出口が硬くすぼまっているのが容易に理解できます。

Mt_fuji【国際宇宙ステーションから見た富士山】
2D画像では同じように観察できても、立体的には全く異なる印象になります。
富士山とカルデラ火山では外見上は全く異なる火山です。2D画像と3D画像の表現する目的が異なるのです。
前立腺を大きさしか判断しない検査に疑問を感じませんか?

Bph3d18735m89【実例】
手術するにはタイミングがあります。
この3D写真は何か分かりますか?
実は89歳の男性です。ある国立病院で前立腺がとても大きく(100cc以上)手術を選択されずに、膀胱カテーテル留置になった患者さんです。
3週間から4週間に1回カテーテル交換を行なっています。前立腺が100cc以上とかなり大きく、年齢のこともあり、現時点では私も手術に積極的にはなれません。
Bph3d18735m892d通常の2D画像です。
膀胱・前立腺を側面で観察した所見です。
この患者さんは国立病院で前立腺肥大症用の尿道ステントを留置しましたが、結局思うように排尿できず、尿路感染が取れず、ステントを留置したまま膀胱カテーテルを設置されたのです。

Bph3d18735m89memo棒のように上から降りているのが、膀胱留置カテーテルの先端部です。
その下に白い塊は膀胱内にできた膀胱結石です。高橋クリニックに来院当初から結石は認めています。

Coagulatampon12518m723【実例】
何でしょう?

Coagulatampon12518m72何でしょう?

Coagulatampon12518m722何でしょう?
回答は、ここをご覧下さい。

Bph77m183734【実例】
77歳男性の前立腺肥大症の2D画像です。前立腺の大きさは58cc(正常25cc以下)とかなり大きな前立腺肥大症です。
Bph77m183733D正面画像です。
盛上がっていて、どこに膀胱出口があるのか分かりにくいですね。
まるでバラの花のようです。何重にも重なっているシワは、肉柱といって膀胱平滑筋の肥大した束です。排尿障害が強く病歴が長いと、このシワが形成されます。
Bph77m183732上図の3D画像からゲイン(感度)を下げると、表層粘膜の表情が透けて、深部の組織(筋肉・靭帯)が描出されます。
するとナルトのような渦状の膀胱出口が確認できます。
Bph77m1837333D背面画像では、前立腺組織は透けて、膀胱出口の厚くなった膀胱平滑筋が確認できます。
前立腺肥大症の大きさで医師は排尿障害を推測します。しかし実は、この膀胱平滑筋の厚さが排尿障害の原因かもしれません。

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前立腺癌の分類 グレソン分類

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前立腺癌の潜在率?

昨年暮れ、都内の泌尿器科医のクローズの食事会があり、私の1年後輩の和田鉄郎先生(現在、慈恵医大助教授)と久しぶりに話す機会がありました。
彼の研究テーマは前立腺ラテント癌についてです。ラテント癌とは潜伏癌のこと云います。他の病気が原因で亡くなられた方を病理学的調査をおこなってみると、相当数の前立腺潜伏癌が見つかったという研究です。
現在の前立腺癌の早期発見の状況について疑問を投げかける研究結果でしたので、皆さんにご披露しましょう。
(和田先生には許可を得ています。)

【最近の日本人の前立腺潜伏癌(ラテント癌)の臨床病理学的検討】
(日本泌尿器科学会誌78卷12号1987年)

Latentpcawada私の出身大学の病院で、2年間に不幸にも病気で亡くなられ、医学研究のため献体下さったご遺体で、解剖検査を行なった男性283人の前立腺病理学的精密検査を行なった前立腺潜伏癌の結果です。
亡くなられた原因である病気に、前立腺癌は含まれていません。
この研究は、彼がコツコツと地道な努力で得られたとても価値ある結果です。
大学で臨床ばかり行なっていて勉強や研究をおろそかにしていた私としては、とても頭が下がる思いです。
さて、この研究の結果、和田先生は現在の前立腺癌増加の理由について、(一般の泌尿器科医が信じて疑わない、PSA検査などの前立腺腫瘍マーカーの信頼性と前立腺癌の発見について)疑問を感じたそうです。

Latentpcawada2この表で示すように、80歳以上の男性では、50%の人に前立腺癌(潜伏癌)が存在していることが判明したのです。
40歳以上で前立腺癌の存在率は、何と24.2%です。今回の調べた男性が極々標準の人だと仮定すると、40歳以上の男性5人に1人以上の確率で前立腺癌が存在することになります。
50歳以上では、26.5%です。4人に1人以上です。これは恐るべき数字です。私は今年で55歳になりますから、このデータは人ごとではありません。
 
S07985090f007人間ドックや健康診断の際に、前立腺癌検診を50歳以上から勧められています。
通常、PSAという前立腺癌腫瘍マーカーの血液検査です。
しかし、50歳以上の男性でPSA検査陽性率が25%というのは聞いたことがありません。
Nlpcaそうなのです。前立腺ガンを的確に判断できる究極の血液検査であるPSAといえども、ラテント癌に関しては、陽性率はおそらく20%以下でしょう。当るも八卦当らぬも八卦の50%を下回ることになります。また、PSAは排尿障害で容易に高くなりますから、前立腺肥大症でPSAが高くなった患者さんで組織検査したら、たまたまラテント癌が見つかることがあります。
主治医は「さすがPSA!」とPSAに対して絶大な信頼を置くことになり、前立腺肥大症=排尿障害=PSA上昇をすっかり忘れ、PSAの信奉者になります。ラテント癌は放置しても良い可能性の癌ですが、一度見つかってしまったら鬼の首を取った如く、泌尿器科医は積極的な余分な抗がん治療を行なうでしょう。放置しても問題ないガンであれば、予後が良いのは当たり前で、無駄な抗がん治療を受けながら主治医に感謝することになります。
逆に私のような考えでラテント癌を放置したとすれば、常識的な泌尿器科医(PSA信奉者)からは非難轟々でしょう。真実は必ずしも受け入れられないのです。無知が幸せということもあります。

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前立腺肥大症とは? #2

以前にも前立腺肥大症についての総論を述べましたが、内容が普通すぎて面白みに欠けるので、観点を少し変えて改めてここで述べます。

【概念】
前立腺は生殖に必要な臓器です。加齢とともに生殖が必要ではなくなるので、前立腺は退化します。退化の仕方が2通りあります。それが前立腺萎縮前立腺肥大症です。
私が研修医になった28年前頃は、前立腺萎縮:前立腺肥大症が4:1であったのが、最近では前立腺萎縮:前立腺肥大症が1:4と逆転しています。ペニスの大きい男性=高齢になっても性行為は現役=前立腺肥大症という印象でしたが、今ではその法則は成り立ちません。
なぜ萎縮から肥大へと移行したのでしょう?理由は近年の食生活の欧米化、高カロリー・高タンパク・高コレステロールにあるのだと私は考えています。
Bph20040728右の写真はMRI検査で観察された前立腺肥大症です。前立腺の周囲との位置関係は写真をクリックしていただければ分かります。
さて、前立腺肥大症=前立腺が大きいということではありません。ここが誤解されるところです。前立腺肥大症とは病理学的組織検査の結果の診断名です。顕微鏡で判別する診断名ですから、前立腺肥大症のサイズが小さくても、前立腺肥大症は前立腺肥大症なのです。臨床医が前立腺肥大症による排尿障害の患者さんを目の前にして、前立腺は大きくないから前立腺肥大症ではないと、誤診する医師が多いのに驚きます。

【症状】
Ipss前立腺肥大症の多岐に渡る症状をスコア化して、誰でもが客観的に共通に評価できるようにしたのが国際前立腺症状スコア(IPSS)です。
前立腺肥大症の症状をすべて網羅している問診表ではありませんし、現在でも賛否両論ありますが、世界共通の問診表です。
A・B・D・Gが膀胱・前立腺刺激症状の質問です。
C・E・Fが排尿障害の質問です。
最後の質問が、患者さんの主観的満足度、つまりQOL(生活充実度)を質問します。
まったくの健常者はスコア0点です。
スコア6点以下であれば、症状はあるが治療の必要はないと判断します。
スコア7点から21点の間は、検査をした方がよいでしょう。
スコア22点から35点は、必ず検査・治療を受けましょう。

【検査】
Bph200407282直腸診
以前でしたら、直腸診という触診が必ず行われるべき検査でした。触診で大きければ前立腺肥大症、大きくなければ正常と診断されていました。
右のMRI写真で、肛門から医師が指を入れて直腸診で触診できるのは、赤の部分のラインだけです。
Bph200407283直腸診だけでは、医師は前立腺を赤いラインで囲まれた大きさしかイメージしません。30cc以下の大きさです。

Bph200407284しかし,このMRI写真を前立腺だけを緑で囲めば、実際には40cc以上の大きさがありますから、本当の前立腺の大きさよりも小さく認識してしまうのです。
私でも直腸診だけの診察であれば、同様に誤診してしまいます。

●超音波エコー検査
この患者さんのように前立腺の位置が膀胱側に片寄っている人の場合は、触診では前立腺は大きく触れないという欠点があります。その誤診を避けるために必ず行なわなければならない検査として超音波エコー検査があります。超音波エコー検査には経腹式超音波エコー検査(腹部エコー)と経直腸的超音波エコー検査に分けられます。
膀胱と前立腺の位置関係を判別するためには、腹部エコー検査の方が優れています。逆に経直腸的エコー検査は前立腺ガンに診断に有用です。

●尿流量測定ウロフロメトリー検査
Uroflownl_1【正常な尿流量測定ウロフロメトリー検査曲線】
(日常診療のための泌尿器科診断学㈱インターメディカから複写)
尿の勢いを具体的に目に見えるようにデータ化したのが尿流量測定ウロフロメトリー検査です。
グラフの縦軸が排尿速度(勢い)でグラフの横軸が排尿時間です。
Uroflownormal_1Uroflowbph_1
左のグラフが前立腺肥大症患者さんの勢いで、右のグラフが健常者の勢いです。一目瞭然です。

●内視鏡検査
十分に麻酔をかけて行う検査です。患者さんが痛がるようでは、泌尿器科医として失格です。
16633m70bphbns画面の中央下に見えるのが、精丘です。精嚢腺からの精液噴出孔です。精丘の周囲にはゴマのような石灰が確認できます。排尿障害の所見です。
左右から圧迫しているのが前立腺(前立腺肥大症)です。正面に見えるはずの膀胱出口が確認できません。
16633m70bphbns6同じ患者さんの超音波エコー検査の所見です。前立腺が膀胱側に突出しているのが判別できます。
膀胱出口から尿道に沿って石灰が確認できます。精丘も石灰で白く見えます。(前立腺というマークの真下)
16633m70bphbns7内視鏡手術を行なって、カテーテルを抜いた直後の超音波エコー検査所見です。
十分に切除されたのが分かります。膀胱三角部が本来の位置に戻っています。
16633m70bphbns5同じ患者さんの内視鏡手術直後の所見です。精丘から膀胱出口を確認できるようになりました。切除した量は、10gも満たないわずかな量です。

Bph4この患者さんは前立腺肥大症の中葉肥大タイプです。正面に崖のように粘膜が行く手をふさいでいるように見えます。本来なら、精丘の後には膀胱出口が確認できなければなりません。
左右から圧迫しているのが前立腺(前立腺肥大症)です。

●尿道造影
造影剤を尿道から膀胱に向かって注入するレントゲン検査です。造影剤で作った影絵で、尿道の圧迫の幅と圧迫の長さなどから前立腺肥大症の状態を想像するのです。排尿とは逆向きの流れを作るわけですから、検査中は多少の不快感や痛みを伴います。
しかし、私はこの検査をほとんど行ないません。超音波エコー検査で、前立腺肥大症の様子が手に取るように分かるからです。昔ながらの医師が未だに行っているでしょう。

【診断】
前立腺肥大症を診断するためには、問診と直腸診、超音波エコー検査、尿流量測定ウロフロメトリー検査、残尿量測定検査、尿一般検査の少なくとも5つの検査を行うだけで十分です。
これら検査で、前立腺の大きさ、排尿障害の程度、患者さんの悩みが把握でき診断できます。
検査結果をすべて平等の価値として把握し、前立腺の大きさにのみとらわれることなく診断しなければなりません。
前立腺の大きさは、前立腺肥大症の必要条件かもしれませんが、十分条件ではありません。大きさが20cc~25cc内の正常範囲であっても、排尿障害などの症状が出てくるからです。


【内科的治療】
●生薬
パラプロスト
エビプロスタット
セルニルトン

どのお薬も前立腺肥大症の軽い症状に処方します。
前立腺肥大症の排尿障害による前立腺の炎症を軽減させ、排尿を促進させます。

●漢方
八味地黄丸
牛車腎気丸

八味地黄丸はテレビ・コマーシャルでおなじみの市販薬のハルンケアです。
前立腺肥大症の症状は、漢方でいう「腎虚」という下半身の衰えの症状の一つです。ですから、坐骨神経痛・足の冷え・足のシビレ・ED・足腰の弱りなどと一緒として治療されるので、これら漢方薬になります。

●ホルモン剤
プロスタール
正式には抗男性ホルモン剤です。前立腺肥大症は男性ホルモンで成長します。ですから男性ホルモンを抑えれば、前立腺は萎縮するのです。
しかし、最近はこの治療は下火になりました。なぜなら、前立腺が萎縮しても排尿障害が治らないことと、男性ホルモンを抑えることで男らしさが失われる、男性としてのQOLが低下するからです。

●αブロッカー
前立腺肥大症の排尿障害治療薬として、αブロッカーがあります。本来、αブロッカーは、高血圧の治療だったのですが、前立腺組織の平滑筋がαブロッカーでゆるみ、排尿障害の治療薬として有効なので開発されるようになりました。
現在、前立腺肥大症用のαブロッカーは、正式にはα1ブロッカーで、前立腺に特異的に効果があり、血圧には影響のない薬です。次のようなα1ブロッカーが処方されます。
ユリーフ(α1aブロッカー)
ハルナールD(α1a>>α1dブロッカー)
フリバス・アビショット(α1a<<α1dブロッカー)
使い分けは、排尿障害症状が強い患者さんはユリーフ、排尿障害症状と膀胱刺激症状がある人はハルナールD、排尿障害よりも膀胱刺激症状が強い人か、ユリーフ・ハルナールなどのα1a優位の薬が効かない人にはフリバス・アビショットです。

【外科的治療】
●温熱治療
Onetsu一時は、一世を風靡した温熱治療(高温度治療)は、下火になってしまいました。手術をしないで効果が絶大とまでいわれたのですが、効果はそれ程でもなかったのです。効果があっても1年~2年位で効果が薄れてしまうので、治療する側の医師からすれば「な~んだ」という思いが出てきたのでしょう。
原理的には、熱で前立腺肥大症の平滑筋αレセプターを焼くというものです。αブロッカーを服用しなくてもよい状態にするということですが、αレセプターというタンパク質が再生されてしまうので、効果が持続しないという結果になったのです。
各医療器械の会社が様々な製品を作りまいた。高温度の熱源が、マイクロ波・ラジオ波・レーザー光線・超音波などですが、結果は50歩100歩でした。医師に興味が薄れたので、現在、前立腺肥大症高温度治療を行なっている病院は、数えるほどでしょう。

●内視鏡手術・レーザー手術
100ワットクラスの高出力のレーザー光線で前立腺肥大症を蒸発・凝固させる方法です。
レーザー光線の波長により、手術法が変わります。


●内視鏡手術・電気メス手術
Bph20040728org手術前の状態

Bph20040728turp_1【合成写真】
一般的に行なわれようとする、執刀医の理想的な内視鏡手術後のイメージ
このイメージは、開腹手術の前立腺摘出手術のイメージです。前立腺はすべて取り去り、前立腺被膜のみを残す方法です。前立腺の大きさが40ccであれば、摘出量は40gになります。

Bph20040728turptrue【合成写真】
実際の内視鏡手術後のイメージ
このイメージ通りであれば、排尿障害の症状は改善されますが、膀胱・前立腺の刺激症状は改善しません。また、排尿後の、尿の切れの悪さも改善しません。
前立腺の大きさが40ccであれば、前立腺切除量は25g(25cc)程度でしょう。